論文集抄録
〈Vol.54 No.6(2018年6月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ 歩行による床振動特徴による個人識別

富山大学・杉本 涼輔,金 主賢,中島 一樹

疾病の早期発見・治療のため,家庭内のトイレや浴槽から生理情報を自動取得するセンサシステムが研究・開発されている.2人以上が同居する家庭の場合,これらのセンサによって得られたデータは個人識別する必要がある.しかし,既存の個人識別法の多くはプライバシーの侵害や,使用者の積極的な協力を必要とするため負担になる.本研究では,利用者の負担やプライバシーに配慮した歩行時の床振動特徴による個人識別法を開発した.床に設置した振動センサより得られた歩行振動波形から,各歩行振動の電圧のPeak to peak値とピーク間隔で8つの特徴量を抽出した.抽出した特徴を用いたマハラノビス距離で個人識別を行った結果,平均識別率は92%であった.


 

■ ロバスト制御におけるアクティブラーニングを目的とした遠隔実験環境の効果

長岡工業高等専門学校・佐藤 拓史,竹部 啓輔,
長岡技術科学大学・小林 泰秀

ロバスト制御の理解においては,どれだけ具体的な対象に対して制御系の設計や制御実験を行えるかが1つの手段であると考えられるが,そのためにはいつでも制御系の設計や制御実験が行える環境が必要になる.我々はこの問題を解決するために,講義時間外でもロバスト制御理論を学ぶ学生が積極的に学習できる環境を提供することを目的にインターネット上で使用できる遠隔実験システムを開発した.我々が開発した遠隔実験環境は,制御器のパラメータファイルをWebページにアップロードすることで自動的に実験を行い,制御実験結果を1分程度でWebページに掲載できるものである.開発した遠隔実験システムを平成27年度と平成28年度のロバスト制御の講義に導入し,能動騒音制御のロバスト制御器の制御実験に利用した.制御器設計の個数や遠隔実験環境の利用頻度等を分析し,課題レポートとの突合せを行った結果,遠隔実験システムの導入前と比較して,より多くの受講生が積極的に取り組んだことが分かった.アンケート結果からも同様な結果を得られた.


 

■ 受動性に基づく分散協調型3次元視覚人間位置推定アルゴリズム

東京工業大学・舩田 陸,山下 駿野,
大阪大学・畑中 健志,東京工業大学・藤田 政之

本論文では,視覚センサネットワークを用いた分散協調型3次元視覚人間位置推定問題を考察し,受動性とループ整形法に基づく推定アルゴリズムを提案する.まず,本問題を分散最適化問題として定式化する.つぎに,受動性に基づく分散最適化アルゴリズムを適用し,結果得られる応答が最適解へ漸近収束するものの,収束の速度が遅いことと振動的であることを示す.この課題を解決するため,本論文ではループ整形法を用いた新たな分散最適化アルゴリズムを提案し,最適解への漸近収束が保たれることを受動性に基づいて証明する.また,提案手法が本論文で対象とする位置推定問題に対して適用可能であることを証明する.最後に,提案手法により,収束速度の向上と振動の抑制が達成されていること,さらに外乱に対する抑制性能も向上されていることをシミュレーションにより確認する.


 

■ 軸方向繊維強化型空気圧式ゴム人工筋肉の長寿命高効率化のための形状検討

中央大学・山田 泰之,小島 明寛,奥井 学,中村 太郎

空気圧駆動システムは,モータや油圧駆動にはない特性から様々な分野で幅広く用いられている.著者らは,細いカーボン繊維が軸方向に内包されたゴム管により構成されている軸方向繊維強化型空気圧人工筋肉(SF-ARM) を開発している.SF-ARMは同径のマッキベンよりも大きな発揮力と大変位が可能な,高出力アクチュエータである.これらの人工筋肉に共通する実用上の問題点は,空気圧源を含めたモバイル化と,耐久性である.本研究では,SF-ARMの耐久性向上と空気使用量の削減について検討し,より応用性の高い人工筋肉を提案する.耐久性については,疲労寿命と形状の関係性を明らかとする.空気使用量の削減については,中空人工筋肉の構造提案と特性を計測した.結果,無負荷8万回の連続駆動を実現した.また,中空化によって空気使用量低減と,出力と応答性の向上を確認した.


 

■ 衝撃波の伝播方向の推定法について

 東京電機大学・遠藤 正樹,東京都立産業技術高等専門学校・稲村 栄次郎

本論文では,流れ場内に形成される衝撃波の流れ場に対する角度を計測する方法について検討したので報告する.自動車の吸排気系や航空機用エンジン内に形成される衝撃波の強さや流れ場に対する形成角度は自動車や航空機の性能に大きな影響を及ぼしている.また,超音速噴流を用いた加工機では,噴流内の衝撃波の挙動が加工効率や加工対象物の仕上がりを左右する.本研究では,受圧部に隔膜を用いた圧力変換器を対象とし,流れ場内を衝撃波が伝ぱする際の受圧部隔膜の変形を有限要素法により解析し,衝撃波通過により生じる隔膜の挙動と衝撃波の伝ぱ方向との関係について議論している.さらに,衝撃波管を用いて,衝撃波の伝ぱ方向を圧力変換器からの出力により解析し,実際の伝ぱ方向と比較を行った.有限要素法の数値解析により隔膜表面に生じる主応力方向と衝撃波の伝ぱ方向は同一か互いに直角をなすかのいずれかであることが示された.また,衝撃波管の実験結果より求めた主応力の方向は時間とともに変動し,衝撃波の伝ぱする方向およびそれに直交する方向と一致することが示された.結果として,本研究で提案する方法により,流れ場に対する衝撃波の方向が十分な精度で見積もることができることが示された.


 

仮想的な機械要素を有するヘビ型ロボットの動力学的経路追従フィードバック制御法

青山学院大学・山口 博明,野木 滉一郎,米澤 直晃,冨岡 明弘

本論文では,体形の周期的な変化を移動に変換するヘビ型ロボットにおいて,運動学的なモデル化に導入する仮想的な機械要素により得られる目標速度を,動力学的に実現する経路追従フィードバック制御法を,新たに提案した.本制御方法では,ヘビ型ロボットの先頭リンクの先端に仮想的な機械要素を導入し,仮想的なリンクを周期的に曲がる目標経路に追従させ,すべての回転関節の周期的な屈曲と伸展を繰り返すことで,移動を実現している.本制御方法により,ヘビ型ロボットの先頭に導入する仮想的なリンクの運動を,目標経路の形状と目標経路上の目標速度により定量的に指定することで,ヘビ型ロボット全体の運動を一意に決定することができる.特に,目標経路を生物の蛇が移動する際の体形を近似するサーペノイド曲線により計画することで,生成されるヘビ型ロボット全体の運動の軌跡を,サーぺノイド曲線そのもので近似的に求めることができる.これにより,動作環境内における障害物と干渉することのないヘビ型ロボット全体の運動を,サーペノイド曲線を用いて計画することができる.本制御方法の有効性は,ヘビ型ロボットが斜面上においてサーペノイド曲線により計画される目標経路に追従する登坂動作シミュレーションを通して確認されている.