Vol.55,No.10
論文集抄録
〈Vol.55 No.10(2019年10月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 家庭用デシカントシステムの制御方式の提案と冬期導入効果の検討
- ■ 電力市場のための機械学習に基づく前日スケジューリング
- ■ カモメの着地動作の映像解析に基づく自動車の速度制御則の提案
- ■ ヒューマンサービスにおけるサービス提供者の異動影響分析ー組織サイバネティクスと計算組織理論に基づいたシミュレーション方法論の提案
- ■ JIT予測モデル融合型データセンタ空調制御システムの開発と検証
- ■ オートフラップゲート作動状態判定法
- ■ 有限整定条件下での不安定零点と最小アンダーシュート量の解析的表現
- ■ 柔軟膜ひずみセンサを用いた嚥下障害リハビリテーションのための喉頭挙上の検出
[論 文]
■ 家庭用デシカントシステムの制御方式の提案と冬期導入効果の検討
豊橋技術科学大学・松浦 大介,静岡理工科大学・鍋島 佑基,
高知工業高等専門学校・木村 竜士,豊橋技術科学大学・都築 和代
一般住宅におけるエネルギー消費量の約25%が冷暖房空調に投入されており,消費電力削減のためデシカントシステムが提案されている.著者らは稚内層形質頁岩を吸着材としたデシカントシステムの研究開発を行ってきた.本システムは室内のエアコンとの連携制御が不可欠であるが,機器構成が複雑で制御が難しいことに加えて,一般住宅では空調制御は居住者に委ねられている.このことから居住者がデシカントユニットの出力に合わせて居室の空調機の発停・温度設定を適切に制御することは困難であるといえる.そこで本報では,温熱指標である予測温冷感申告(PMV)が常に快適を目指すような空調機の自動制御方式を提案し,冬期において比較実測を行った.その結果,外気温湿度変化に関わらず常に快適な環境が維持された.さらに,換気方式に応じて室内機の温度変更を行うことで,室内のエアコン設定温度を常に最適化が可能となった.暖房電力削減を常に達成するための条件について考察を行った結果,エアコンの消費電力に対して,デシカントユニットの消費電力が仙台で14.5%以下,名古屋では11%以下となれば,消費電力削減が期待できることが分かった.
東京工業大学・渡邉 郁弥,川口 貴弘,石崎 孝幸,
宇宙航空研究開発機構・竹中 栄晶,東海大学・中島 孝,東京工業大学・井村 順一
本論文では,電力市場のひとつである一日前市場において,アグリゲータが電力取引量のスケジュールを決定する問題を考える.一日前市場で取引されたスケジュールと,実際に受け渡す電力量の間に差が生じる場合には,その逸脱量に対するペナルティを支払う必要がある.本論文では,再生可能エネルギーの不確実性のもとで,ペナルティによる損失を抑えるために,前日スケジュールを決定するモデルを機械学習の手法により構築することを提案する.従来,機械学習の手法は再生可能エネルギーを予測する目的で用いられることが一般的であったのに対し,本論文で提案する方法では,再生可能エネルギーの予測を経由せず,スケジュールを直接生成するモデルを,アグリゲータの利益に基づいた学習により構築する.このモデルがパラメータに対して線形な関数であり,かつ電力設備の運用コストや逸脱量に対するペナルティを表す関数がともに凸関数であるとき,アグリゲータの利益最大化を目指した学習問題が凸最適化問題となることを述べる.さらに,ペナルティ関数や運用コスト関数が区分的アファインな関数であるという仮定を追加すると,この学習問題が線形計画問題や2次計画問題に帰着されることを示す.最後に,数値例を通して本提案手法の有用性を検証する.
■ カモメの着地動作の映像解析に基づく自動車の速度制御則の提案
筑波大学・彦坂 勇向,合原 一究,永崎 佑里,河辺 徹
本論文では,カモメの着地動作に基づく自動車の速度制御則を提案する.カモメは,滑らかに減速しつつ目標位置に正確に着地できるため,柔軟な速度制御能力を有していると考えられる.したがって,カモメの着地動作を汎用的な制御法によって再現することができれば,自動車の優れた運動制御法の実現が期待できる.そこで本研究では,最適制御の逆問題の観点から,カモメの着地動作の計測データに基づく制御則を導出する.そして,既存手法との比較により,自動車が停止する際の速度制御法としての提案手法の有効性を示す.
■ ヒューマンサービスにおけるサービス提供者の異動影響分析ー組織サイバネティクスと計算組織理論に基づいたシミュレーション方法論の提案
岩手県立大学・後藤 裕介,大阪府立大学・森田 裕之,大東文化大学・白井 康之
人対人のサービスを行うヒューマンサービスでは,サービス・エンカウンターでの経験が利用継続に影響することと,顧客は店舗よりサービス提供者に対してロイヤルティを抱くという特徴を持つ.このため離職や所属店舗変更などサービス提供者の異動が経営に重大な影響を及ほ゛しうるため,離職リスクの評価や異動効果の予測は管理者の意思決定支援に貢献する.本研究では,サービス提供者異動の影響を分析するためのシミュレーション方法論を提案する.複数店舗を経営するヒューマンサービス提供企業を組織サイバネティクスと計算組織理論の枠組みでモデル化し,顧客精算データを用いた生存時間解析に基づき,環境の多様度を表す顧客類型ごとの来店状況と各類型に対する能力が異なるサービス提供者の構成との関係性から,サービス提供者異動の影響を分析する.ヘアサロン企業を例として,提案方法に基づく分析結果を紹介する.
■ JIT予測モデル融合型データセンタ空調制御システムの開発と検証
東京工業大学/富士通研究所・遠藤 浩史,富士通研究所・鈴木 成人,白石 崇,
大阪大学・畑中 健志,富士通研究所・福田 裕幸,東京工業大学・藤田 政之
本研究では,データセンタの更なる高効率運用に向け,デー タセンタ向け外気利用型空調機に対する予測制御システムを 提案する.このシステムの予測部分では,データセンタの温 度・電力のデータを用いて,JITモデリングと呼ばれる逐次モデル作成手法を用いて,サーバルーム温度やサーバ温度を予測する点に特徴がある.また空調システムに外冷を用いていることから,制御部分は温度以外にもエンタルピーの情報を使い,より省エネとなるような制御アルゴリズムを含む点を特徴としている.本予測制御アルゴリズムをデータセンタに導入し,従来と比較し中間期の省エネ性能を検証した.その結果一時間後の温湿度が相関係数0.97以上の精度で予測でき,JITモデリングが有用であることを確認した.さらに,提案した予測制御アルゴリズムによって,サーバルームの2か月間の消費電力量は従来に対して28.9%削減した事を実証した.
佐賀大学・松田 吉隆,田上 昇,杉 剛直,後藤 聡,協和製作所・藤井 道博
オートフラップゲートは河川の水位の変化に応じて止水・排水を行う無動力式自動ゲート設備である.オートフラップゲートの作動状態について確認する方法は現状では目視のみであるが,河川増水時に管理者が目視で作動状態を確認してゲートを手動で操作することは難しい.そこで本論文では,水位と扉体起立角の測定データから作動状態を系統的に自動で判定する方法を提案する.まず,11の作動状態の分類方法を新たに導入する.次に,作動状態を判定するための計算手順を提案する.判定に利用する扉体起立角理論値はゲートに作用するモーメントに基づいて計算する.提案法の有効性を検証するために,試験設備を利用した実験を実施した.提案法に基づく判定結果と目視結果を比較することによって,作動状態の的確な評価が可能であることを確認した.
■ 有限整定条件下での不安定零点と最小アンダーシュート量の解析的表現
熊本大学・岡島 寛
制御系は制御器の種類やパラメータを変えればいくらでも制御性能を上げれるものではなく,制御系で実現可能な応答性能は制御対象の特性に依存する.特に,不安定零点を有する制御対象は思い通りに制御することが難しい対象として知られており,実現できる応答性能が限られる.不安定零点を持つ対象を制御する場合に着目すべき点の一つにアンダーシュート量が挙げられる.他方,アンダーシュートだけを極力小さくしたい場合にはそのような制御ができない訳ではないが,その代償として他の応答指標が大幅に悪くなる.そこでここでは,このような過渡特性に制約がある不安定零点を持つ系に対して連続時間有限整定制御を施すことを考える.本論文では,この有限整定制約下で実現可能な出力信号の集合に基づいて解析することでシンプルであるが面白い解析結果が得られたことから,これを報告するものである.具体的には,有限整定問題における整定時間とアンダーシュート量の間の関係を解析表現として導く.さらに,有限整定制御の数値例を通してその指標としての有用性を示す.
■ 柔軟膜ひずみセンサを用いた嚥下障害リハビリテーションのための喉頭挙上の検出
神戸大学・勝野 友基,中本 裕之,山本 暁生,
神戸大学/三重中央医療センター・梅原 健,
バンドー化学・別所 侑亮,神戸大学・小林 太,寺田 努,石川 朗
嚥下障害リハビリテーションの1つに喉頭を随意的に持ち上げ,喉頭挙上にかかる筋力強化を図るメンデルソン手技がある.この手技の欠点として教示が困難であることから,手技の習得に時間を要する点が挙げられる.そこで,喉頭運動を視覚的に補助するバイオフィードバックの開発が求められている.本研究では,手技のバイオフィードバックのため,柔軟膜ひずみセンサを用いた喉頭挙上の検出方法の検証を行った.柔軟膜ひずみセンサを用いて,喉頭挙上に伴う頸部の周径変化を計測可能なデバイスを製作した.喉頭挙上の検出方法として,1階差分を用いた方法,1階差分とパターンマッチングを用いた方法の2種類の方法を検証した.若年健常成人21名で計測を行い,同時に言語聴覚士の触診により,喉頭挙上の開始点,終了点,挙上維持時間を求めた.1階差分を用いた方法では,喉頭挙上の開始点は正しく検出できたが,終了点の検出で誤差が生じる場合があった.1階差分とパターンマッチングを用いた方法では,挙上維持時間について言語聴覚士との誤差が1秒未満で検出できた.このことから,本デバイス及び1階差分とパターンマッチングを用いた方法による,バイオフィードバックシステムの有効性が示された.