Vol.55,No.3
論文集抄録
〈Vol.55 No.3(2019年3月)〉
タイトル一覧
[第5回制御部門マルチシンポジウム論文特集号]
[論 文]
- ■ 制御器設計の局所化可能性に対する定量解析
- ■ モデル誤差補償器のオンライン調整法
- ■ 信号損失を考慮したゲイン切り替え型状態オブザーバの設計
- ■ 機械学習によるディーゼルエンジン吸排気系の実時間MPC設計
- ■ フォーメーション制御のための相手ロボットの相対位置推定-座標系の異なる相手ロボットの情報と測距センサの情報の融合-
- ■ バーチャルフォースを用いた自律型UAV群による移動体追従制御則
- ■ レジリエントな監視システムを実現する被覆制御
- ■ 単一点計測による剛体モードを有する宇宙構造物へのスペースデブリ衝突時の外乱推定
- ■ 目視線角速度情報のみを用いた外乱補償型誘導と最適誘導法との比較
- ■ 4段噴射を用いた予混合的なディーゼル燃焼のモデルベースト制御
[ショート・ペーパー]
[論 文]
[論 文]
東京工業大学・浦田 賢吾,石崎 孝幸,井村 順一
本論文では,局所制御器設計の分散設計に対する局所化可能性の指標を提案する.ある大規模システムがレトロフィット制御器によって制御されることを想定する.ここで,レトロフィット制御器とはプラグイン型の局所制御器のことを指し,大規模システム全体のモデル情報ではなく着目するサブシステムのモデル情報のみから局所制御器を設計する手法,すなわち,局所制御器群の分散設計を可能にする手法である.局所化可能性指標を,着目するサブシステム以外のサブシステム群に摂動が加わったシステムと加わっていないシステムの誤差システムの$\Hcal_{\infty}$ノルムとして定義する.提案する指標は,着目するサブシステム以外のサブシステム群の変化に対して制御性能がどのくらい変化するかの定量的な評価を与える.さらに,局所化可能性指標は着目するサブシステムのモデル情報から評価可能であることを示す.最後に,局所化可能性指標を用いて,電力系統に対するレトロフィット制御器の配置問題を数値解析する.
東洋電装・遠藤 弘彬,東京都市大学・関口 和真,野中 謙一郎
本論文では,オートチューニングモデル誤差補償器(AT-MEC)を提案する.MECは ,モデル誤差の影響を抑える2自由度制御法の1つである.この補償器は,構造が単純 で実装が容易である.しかし,補償ゲインの体系的なチューニング方法が存在しない .そこで本論文では,MECのオンライン調整方法として,Fictitious Reference Iterative Tuning(FRIT)をもちいる.FRITは,閉ループ参照モデルからの偏差に基づ きコントローラパラメータの最適値を算出する手法である.AT-MECではMECに FRITをもちいたオンラインチューニング手法を組み合わせることで,変動するモデル 誤差に対しても影響を抑制する.さらに,AT-MECの適用範囲を拡大するために,ATMECに厳密な線形化手法を組み合わせる手法を提案する.これにより提案手法は多く のMIMO非線形システムに対しても有効な手法となる.本論文では提案手法の有効性 を自動運転車両の実験により検証した.
奈良先端科学技術大学院大学・蓼沼 知秀,小蔵 正輝,杉本 謙二
本論文では,信号損失を考慮した連続時間システムの状態推定について論じる.システムの状態を複数の空間的に分散したセンサが観測しており,それらのセンサとオブザーバがラウンドロビンスケジューリングを用いて通信を行う状況を想定する.提案するオブザーバは信号損失の状況に応じてゲインを切り替えることを行う.ゲイン設計には線形行列不等式(LMI)を用い,誤差の連続時間における漸近安定性と減衰率を保証する.最後に,数値例によって提案法の有効性を検証する.
■ 機械学習によるディーゼルエンジン吸排気系の実時間MPC設計
豊田中央研究所・森安 竜大,上田 松栄,池田 太郎,永岡 真,
神保 智彦,トヨタ自動車・松永 彰生,中村 俊洋
本論文では非線形モデル予測制御(MPC)を低演算負荷で実現するための,機械学習に基づく制御設計法について検討し,ディーゼルエンジン吸排気系への適用例を示す.MPCにおいて各時間で求める最適制御問題の解は,その時間における状態や外乱などのいくつかの変数に依存している.ゆえに,それらの変数と最適制御問題の解との関係,すなわち制御則を機械学習で近似すれば,同問題をオンラインで求解することは不要となり,制御演算時間を削減できる.しかし,制御則の入力が高次元の場合,近似のためのデータ収集において組合せ爆発を避けるための効率的なサンプリング法が必要である.本論文では,サンプリング次元を減らし,効率的にデータを収集するための実験計画法を利用したサンプリング法を提案した.本手法を用いて吸排気系のバルブを操作する制御器を設計し,シミュレーション上で目標値への良好な追従性能を実証した.制御演算時間は約0.022msであった.
■ フォーメーション制御のための相手ロボットの相対位置推定-座標系の異なる相手ロボットの情報と測距センサの情報の融合-
鳥取大学・小川 剛史,京都大学・桜間 一徳,
鳥取大学・中谷 真太朗,西田 信一郎
本研究では,フォーメーション制御における相手のロボットの相対位置推定について考える.既存研究では,2個の測距センサによる相対位置推定法が提案されている.しかし,この手法では相手のロボットが両方の測距センサの光線に当たる位置にいることが想定されており,一つでも測距センサの光線が外れると相手のロボットの相対位置を正確に推定できない.そこで本研究では,測距センサの光線が相手のロボットから外れても有効な方法について検討する.まず,無線通信で得られる相手のロボットの動きに関する情報を用いることを考える.さらに,測距センサの情報と座標系の異なる相手のロボットの情報を融合するために,拡張カルマンフィルタを用いる.最後に,シミュレーションで提案手法の有効性を示す.
■ バーチャルフォースを用いた自律型UAV群による移動体追従制御則
横浜国立大学・加太 宏明,上野 誠也
移動体追従を行うためにバーチャルフォースを用いたUAV群の位置制御則を提案する.取得されたターゲットの情報はUAV群のネットワークを介して基地局に送信される.それぞれのUAVは,ローカルな情報のみを用いたバーチャルフォースによりコミュニケーションネットワークの形成および移動量の算出を行う.数値シミュレーション結果により提案した制御則の有効性が確認された.
豊田中央研究所・柴田 一騎,宮野 竜也,神保 智彦
分散型被覆制御は大規模な監視システムを安定に運用する有望な方法として期待されており,最もよく知られている手法としてLloydアルゴリズムがある.しかしながら,本手法を用いると,得られる配置が局所最適配置に収束することがある.この問題を回避するため,ボロノイ分割ベースのカットインアルゴリズムが提案され,最適配置を確定的に求められることが理論的に証明されている.しかしながら,実用的な観点では,移動センサの燃料切れや機体に搭載されたセンサが故障しても監視性能の低下を最小化し,監視性能を回復させるレジリエントな監視システムが望まれる.そこで,本論文ではボロノイ分割ベースのカットインアルゴリズムに基づくレジリエントな被覆制御を提案する.数値実験および複数台のUAVを用いた実験の結果,提案アルゴリズムは従来の被覆制御と比較して被覆性能が向上することを確認した.
■ 単一点計測による剛体モードを有する宇宙構造物へのスペースデブリ衝突時の外乱推定
防衛大学校・山口 功,古川 恵理香,山崎 武志,高野 博行,田中 宏明
柔軟宇宙構造物に未知のインパルス外乱が印加された場合,宇宙構造物に搭載された加速度計測データからその外乱力と印加点位置を推定する手法について検討する.印加される外乱としては,スペースデブリの衝突による衝撃力のようなインパルス的な外乱を想定する.また外乱を受ける宇宙構造物は有限要素モデルでモデル化し,境界条件として周辺すべて自由端と仮定し,いわゆる剛体モードのある系のインパルス応答列から外乱を推定する.また,外乱がインパルス的であるという仮定を利用して,インパルス応答列からのシステム同定理論に基づき,入力に関わるB行列の同定結果から,インパルスの印加点位置とその大きさを推定する方法を提案する.本稿の前半では,宇宙太陽発電衛星のような剛体部分のない,すべて柔軟宇宙構造物で構成される系として,梁や薄板モデルについて推定手法を構築し,後半では,従来型衛星のような中心に大きな剛体部分を有し,その剛体部分に柔軟な太陽電池パネルが付着するような系についても,推定方法を検討していく.
■ 目視線角速度情報のみを用いた外乱補償型誘導と最適誘導法との比較
防衛大学校・中川 紗央里,白石 洋平,山﨑 武志,髙野 博行,山口 功
比例航法は,飛翔体を目標に会合させるための実装が容易な誘導則として知られている.その用途の可能性は飛翔体にとどまらず,移動車両の誘導や航空機のフォーメーションフライト,小型UAVの誘導システムへの適用,さらには人工衛星のランデブー問題や小型月面着陸機への終末誘導制御などの分野においても研究がなされている.その比例航法は,目視線角速度がゼロになる時,ミスディスタンスがゼロになるように飛翔体を誘導する誘導則である.また,比例航法の他にも代表的な誘導則が存在しているが,それらの誘導則では接近速度の情報が得られるという前提条件において,ゲインまたは航法定数を決定している.しかしながら,飛翔体に搭載可能な誘導系によっては接近速度を計測できる機器を搭載できない場合がある.そこで,移動目標に対する情報としては,目視線角速度情報のみが得られる場合に注目した.さらに,速度変化や不確かな目標の運動に適応させるため不確かさ・外乱補償推定器を用いる.本論文では,目標の接近速度,横加速度や相対距離などの追加情報を用いることなく,目視線角速度のみを用いた比例航法に基づく誘導則(不確かさ・外乱補償型)を提案する.従来の代表的な誘導則との比較シミュレーションにより,提案する誘導則の有効性を確認した.
■ 4段噴射を用いた予混合的なディーゼル燃焼のモデルベースト制御
東京大学・高橋 幹,山崎 由大,金子 成彦
本論文では,ディーゼルエンジンにおける4段の燃料噴射を行う予混合燃焼を対象にモデルベースト制御を行った.独自に構築した制御用モデルである離散化燃焼モデルを用いて,2入力2出力制御を行うフィードフォワード(FF)制御器を設計した.FF制御器では,摂動を与えた場合の計算結果から燃焼モデルを線形化し,そこから逆モデルを得る,という手順をリアルタイムで行う.このFF制御器を用いて,目標値追従の制御試験を実エンジンにて行った.制御対象は,2つ存在するメインの熱発生の山のピークの間隔とその値の比であり,そのための操作量として2度目のメイン噴射時期と噴射量を用いた.制御試験ではよい目標値追従精度を示し,本論文で設計した制御システムの有用性が示された.
[ショートペーパー]
富士通研究所・牧原 史弥,笠嶋 丈夫,小川 雅俊
本稿では,半教師あり学習を用いたPWARX(Piecewise Affine AutoRegressive eXogenous)システムの同定手法を提案する.本手法の特徴は,従来使用されていなかった,一部のデータがどのサブシステムから生成されたかを示すラベルを同定のプロセスに導入することにより,モデルの精度を向上させることができる点にある.シミュレーションにより提案手法の有効性を確認した.
[論 文]
■ 近赤外光の吸光特性を利用した水の相状態(液相,固相)の2次元分布定量検出法
長野工業高等専門学校・中島 利郎,本藤 利幸,
竹花 一輝,牧 はるな,神戸大学・的場 修
近年,次世代の冷凍技術として,過冷却現象を用いた瞬間凍結が注目されており,各分野で実用化が進められている.この凍結技術の実適用にあたっては,水の相状態変化のモニタリングが必要な技術として挙げられている.筆者らは,相状態変化のモニタリングのため,水による近赤外光の吸光現象に着目し2波長間の光強度比をベースとした評価指標を提案し,その有効性を確認した.本研究では,上述の評価指標をベースに相状態を2次元分布としてイメージング化し定量的にモニタリングする新規センシングシステムの開発を行なうものである.相状態の2次元分布検出にあたっては 、近赤外撮像カメラを検出器として適用し、同一シーンの2波長の画像を一つの撮像素子面上に同時に結像させる新たな撮像系を開発した。本報告では,開発した相状態 の2次元分布検出方式の構成と基本特性及び過冷却凍結過程中の相状態の時間変化を2次元分布としてモニタリングし,定量評価した結果について報告する.