Vol.55,No.4
論文集抄録
〈Vol.55 No.4(2019年4月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ メディアンを用いた外れ値やデータ欠落にロバストな状態推定オブザーバ
- ■ 生物模倣型ソフト水中ロボットの研究開発-駆動システムを内蔵した立体魚型ロボットの開発-
- ■ 知的作業中の生理指標計測による作業成績推定手法
- ■ ベイズ最適化を用いた制御器チューニング-提案と実験検証-
- ■ RTコンポーネント構造を利用した写真撮影サービスロボットの開発
- ■ 連続時間ADMMの提案と受動性に基づく収束性解析
- ■ LT行列行分解推定による三次元計測
- ■ アクチュエータの弱さによる跳躍安定化メカニズム
- ■ 実制約付き車両配送問題に対する即時配送を考慮した動的配送計画システムの提案
- ■ 一組の実験データを直接用いた閉ループ系の応答予測の新しいアプローチ
[論 文]
■ メディアンを用いた外れ値やデータ欠落にロバストな状態推定オブザーバ
熊本大学 ・岡島 寛,東京都立産業技術研究センター・金田 泰昌,
熊本大学・田村 友規,松永 信智
制御工学において,状態フィードバック制御は最も重要な制御手法の一つとして挙げられる.このとき,全ての状態量をセンサによって計測することは一般的に困難であり,制御系構成時には状態推定オブザーバを併用することになる.本研究では,観測出力に外れ値やデータ欠落が生じるような系の状態推定手法としてメディアンを利用した新たな状態推定オブザーバを提案する.メディアン操作は,複数の値の中央値を得るもので,外れ値等の影響除去に適した操作であり,画像処理や統計処理に用いられる手法である.通常,オブザーバでは現在時刻の観測出力値を利用するため,外れ値やデータ欠落を含む信号を利用すると外れ値を利用した時刻を境に大幅な状態推定精度の劣化が生じる.これに対して,時刻の異なる観測出力に基づいて複数の状態推定値の候補を求め,それらのメディアンを計算することで外れ値やデータ欠落の影響を除去する状態推定オブザーバを構成する.このオブザーバをMCV状態推定オブザーバと呼ぶ.本論文では,オブザーバの提案だけでなく,安定性証明のための特殊なリアプノフ関数の構成や,安定化ゲイン設計のためのLMI条件を導いた点に高い新規性がある.提案したオブザーバの有効性を数値例により検証する.
■ 生物模倣型ソフト水中ロボットの研究開発-駆動システムを内蔵した立体魚型ロボットの開発-
電気通信大学・谷口 貴耶,西村 冬威,SUPMECA・Hammadi MONCEF,
CHOLEY Jean-Yves,電気通信大学・明 愛国,下条 誠
筆者らは,ソフトアクチュエータの中でも大出力・高速応答などの特徴をもつ圧電繊維複合材料を用いた立体的な生物模倣型ソフト水中ロボットの研究開発を行っている.本稿では,バッテリ・圧電繊維複合材料駆動のためのアンプ・マイコンからなる駆動システムをロボットに内蔵し,外部システムと有線接続せずに水中で推進することができるソフト水中ロボットの実現を目的とする.初めに,基本的な要件を考慮した小型駆動システムを設計する.次に,実際のニジマスの構造を基に,小型駆動システムを内蔵可能な立体魚型ソフト水中ロボットを設計・試作する.その後,試作機を用いて水中駆動実験を行い,性能を評価する.駆動システムの性能評価では,ロボット内部の温度・連続駆動時間・無線モジュールのRSSI(Received Signal StrengthIndicator)を評価する.推進性能の評価では,推進速度と泳動数を確認する.これらの実験により,駆動システムを内蔵し,外部のコンピュータと無線接続された,水中駆動可能なソフト水中ロボットを実現したことを確認した.
京都大学/大阪ガス・國政 秀太郎,
大阪ガス・瀬尾 恭一,京都大学・下田 宏,石井 裕剛
知的生産性を定量的に評価するため,既往研究では認知タスクの作業成績の評価を行ってきた.一方で,認知的負荷を反映する生理学的指標を用いて知的生産性を評価する研究が増えている.本研究では,生理指標(瞳孔径と心拍変動)を用いて知的作業者の作業成績を推定する方法を開発した.推定モデルとして,サポートベクトル回帰(SVR)とランダムフォレスト(RF)の2つの機械学習モデルを採用した.本実験の結果,SVRの決定係数は0.875であり,RFの決定係数より高いことがわかった(p <0.01).その結果,説明変数として瞳孔径と心拍変動が有効であり,SVRが作業成績推定に有効であることが示唆された.
■ ベイズ最適化を用いた制御器チューニング-提案と実験検証-
京都大学・中野 雄一郎,藤本 悠介,杉江 俊治
本論文では制御対象の精密なモデルを必要とせず,実験データから制御器のパラメータを直接チューニングする全く新たな手法を提案している.具体的には,実験データに基づいて,制御器パラメータと対応する評価関数の数値から,評価関数そのものを推定し,ベイズ最適化を利用して制御器のパラメータをチューニングする手法を提案し,その有効性を評価している.数値例では,あらかじめ正しい解が求められるLQ最適制御を例に取り,提案するパラメータチューニング手法による評価関数の最小化を試み,この手法の有効性を確認した.さらに,実機による位置決め制御の実験検証をおこない,提案手法により,高速で目標値へと収束するPID制御器や,規範モデルに近い応答特性を示すPID制御器が自動チューニングにより得られることを示した.
■ RTコンポーネント構造を利用した写真撮影サービスロボットの開発
芝浦工業大学・松日楽 信人,中井 智之,
藤本 一真,生田目 祥吾,首都大学東京・山口 亨
サービスロボットの市場拡大を目指して,共通ミドルウエアを活用し,コンポーネントシステムにより,写真撮影サービスを実現するロボットの開発を行った.写真撮影というタスクに対して,実現するための機能をモジュールとして捉え,公開されているコンポーネントを再利用し,不足のコンポーネントを開発することで,システムの構築を行った.信頼性を向上するために,コンポーネントの性能を向上するアプローチと,コンポートネントの組合せによるアプローチの2つが可能であり,ここでは前者での性能向上について実験により示した.さらに,成功率を向上するために人が介入するやり直し動作の有効性も確認した.また,共有化のためにロボットのシステム構成に対応するコンポーネントについても仕様を設計し,実験により確認した.最後に写真選択も自由にできるようにシステムの拡張性についても検証した.以上の結果,写真撮影サービスの成功率は,多様な環境において,2人の場合でも約90%以上に向上させることができた.写真撮影の利用方法は,これに限らずいろいろな方法が考えられるので,コンポートネント化による手法は,対応性が高いと言える.
豊田中央研究所/東京工業大学・宮野 竜也,東京工業大学・山下 駿野,
大阪大学・畑中 健志,豊田中央研究所・柴田 一騎,神保 智彦,東京工業大学・藤田 政之
本論文では,凸計画問題に対する連続時間Alternating Direction Method of Multipliers(ADMM)アルゴリズムを提案し,受動性に基づく収束性解析を行う.まず,目的関数が必ずしも狭義凸ではない凸計画問題を,等価なADMM形式に変換する.つぎに,連続時間ADMMを提案し,受動システムの結合理論に基づき解析を行うことで,任意の初期値に対する解が,最適性条件を満たす集合の部分集合に収束することを証明する.最後に,提案アルゴリズムの有効性を数値シミュレーションにより検証する.
東北大学・千葉 直也,橋本 浩一
光学的な三次元形状計測は産業用ロボットビジョンに用いられる要素技術であり,これまでに位相シフト法や空間コード化法をはじめとする多くの手法が提案されている.しかし,金属や半透明樹脂などの鏡面反射や表面下散乱を有する物体については,安価で汎用的な光学システムによる形状計測はいまだ困難であった.この問題を解決するため,我々はプロジェクタ・カメラシステムにおけるLight Transport (LT)行列を用いた三次元計測法を提案する.LT行列は,プロジェクタから照射された光線が計測シーンでの反射を経てどのカメラ画素でどれだけ観測されたかを記述した行列である.LT行列とエピポーラ幾何を用いることで間接反射成分の多くを取り除くことができ,鏡面反射や表面下散乱を有する物体の形状計測が可能となる.一方で,LT 行列は巨大な行列のため,正確に計測するには莫大な時間がかかる.我々は LT 行列のスパース性を利用し,高速にLT行列を推定する手法について議論する.LT行列推定問題を解くためのスパース再構成アルゴリズムを比較・検討し,さらに行分解推定を導入することで高速に高解像度な LT行列の推定を行う.評価実験として実際に金属物体・半透明物体の三次元計測を行い,提案法の性能を確認した.
大阪大学・田中 颯樹,増田 容一,石川 将人
本論文では,DCモータの持つ物理特性を制御則として活用することによって,センサもコントローラも用いずに安定跳躍現象を実現するロボットの設計ならびに非線形力学の観点からの解析を行う.まずDCモータとクランクからなる機構の基本特性,特に外力が加わった時に「負ける」ことによって回転速度が増減するメカニズムについて記述する.
続いて,これを跳躍ロボットとして実装し,脚端と床面とが力学的に相互作用する状況下において,定電圧を印加すると安定なリミットサイクルが生じること,また電圧に応じて異なるパターンのサイクルが発現することを実験的に示す.論文の後半では,いくつかの仮定を置いて単純化した数理モデルを用い,サイクルの安定性および分岐現象の発現のようすを解析する.
■ 実制約付き車両配送問題に対する即時配送を考慮した動的配送計画システムの提案
徳島大学・沖 展彰,小野 典彦,永田 裕一
本論文ではある企業で必要とされる配送計画問題を参考に,時間枠付き車両配送問題をベースとしてドライバーの昼休憩や複数人で行う作業といった追加要件を組み込んだ実制約付き車両配送問題のモデリング,およびその最適化手法の提案を行う.配送計画の評価は車両数や労働時間といった標準的なものだけでなく,オプションとしてドライバー間の労働時間の均等化も考慮して行う.また,実際の配送現場では,配送中に受けた追加注文に対応するための動的スケジューリングが必要とされる場合が多い.本研究ではこの問題に対する動的スケジューリングのモデリングも行い,動的スケジューリングに対応した最適化手法も提案する.実制約付き車両配送問題の例題として,2地点間の移動時間や移動距離などの情報をゼンリン社のデジタル地図情報から取得して,現実に近い状況を反映した問題を作成した.モデリングした実制約付き車両配送問題の解法として,本研究ではタブー探索と反復局所探索を基本とした探索手法を提案する.
■ 一組の実験データを直接用いた閉ループ系の応答予測の新しいアプローチ
電気通信大学/ブラザー工業・高橋 英輔,電気通信大学・金子 修
制御器を設計したのちに,机上でその有効性を評価する手段として制御対象の数式モデルを用いた数値シミュレーションがよく知られている.これを行うためには制御対象の動特性を適切にあらわす数式モデルを得られていることが前提であるが,そのようなモデルを求めることが困難な状況も少なくない.
たとえば,モデルを同定するための時間を十分に取れない,安全性の観点から同定に適した入力信号を対象に印加することが困難,といったさまざまな状況が考えられる. このように対象の数式モデルを得ることが困難な状況においても机上で設計した制御器の有効性を評価できる手段があれば非常に有益である.そこで本論文では,一組の実験データから制御対象をモデリングすることなく,直接閉ループ系の伝達関数を推定し,それを用いて対象の入出力応答を予測する新たな手法を提案し,その有効性を実機実験により示す.ここでの提案手法の意義は,設計した制御器を実装する前に,モデルを用いずに実験データを用いて入出力応答の予測を可能にしている点にある.