論文集抄録
〈Vol.55 No.6(2019年6月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論 文]

■ 住宅等の気密性能を測定する新たな方法

法政大学・多田 光男,小林 一行,渡邊 嘉二郎

本論文は,住宅の隙間面積から気密度を評価するための新規で簡単な方法について述べる.JIS A2201:2017に規定されている従来の測定手順では,装置として高出力送風機,流量計,微差圧センサを必要とし,認定された検査員が実施しなければならない正確な測定を必要とする.提案手法では,全ての窓が閉じている場合と窓の1つがわずかに開いている場合,自動クローザードアが閉まるときの圧力変動を低周波マイクロホンによって測定する.窓が閉じている場合と空いている場合の両者の圧力変動の違いら,隙間面積を推定する.JISの方法の測定原理は,空気を非粘性完全流体として扱うBernoulliの法則に基づいているが,ここで提案する方法は,空気を粘性流体として扱うHargen-Poiseuilleの式に基づいている.検証実験では,JIS法で測定した隙間面積は531cm2であり,提案する方法の最適窓開口条件で538cm2から542cm2で平均540m2であった.本提案手法で,JIS法と同程度の値が得られた.


 

■ ゲーム理論的トランザクティブ制御に基づく二階層電力調整力市場設計

早稲田大学・和佐 泰明,富山大学・平田 研二,早稲田大学・内田 健康

本稿は階層的トランザクティブ制御を考える.特に,ダイナミクスを考慮した電力システムと電力調整力市場を統合したエネルギー需給ネットワークにおける市場設計法を提案する.提案する調整力市場は有限時間微分ゲームで表現される一次・二次調整力市場と双対分解を用いた三次調整力市場で構成される.一次・二次調整力市場はアンシラリーサービスを保証しながら,三次調整力市場により与えられる目標値に追従する機能を持つことが特徴の一つである.最後に,電気学会東日本30機系統モデルを用いたシミュレーションを通して,提案する調整力市場と制御手法の効果と限界について考察する.


 

■ 線形力学対称システムのDVDFB制御入力飽和時の安定条件とそのポリトープ表現

室蘭工業大学・高久 雄一,湘南工科大学・池田 裕一,電気通信大学・木田 隆

入力飽和がないという条件のもとでは,コロケーション条件を満たす2階の微分方程式で表現される力学系と静的出力フィードバック制御器からなる線形力学対称システムについて,物理パラメータ値によらずに内部安定性やロバスト安定性を保証できることが知られている.本研究ではこの知見を拡張し,フィードバック入力が飽和する際の線形力学対称システムの安定性について検討する.はじめに,入力飽和を許容するシステムの安定条件を導出する.そして,実用的な観点からその条件をポリトープ形式で表現する.最後に数値例を用いて議論の検証を行う.


 

■ ガウス過程回帰を用いたエンジンノックのモデル化とその制御

東京工業大学・大山 博之,山北 昌毅,トヨタ自動車・佐多 宏太,松永 彰生

ノックリミット制御は高効率な自動車エンジンの運転に必要な技術である. 本稿ではガウス過程を用いたエンジンノックの同定とその制御手法を提案する. フィードフォワード入力がノック確率を近似したガウス過程モデルにより設計され, そのモデルはノック強度の値によってオンラインで更新される. ガウス過程モデルとしては異分散ガウス過程と逐次ガウス過程の適用を考える. 提案手法の有効性は数値シミュレーションにて示される.


[ショート・ペーパー]

■ペロン根に着目した非負システムの極配置

大阪大学・森 悠貴,藤崎 泰正

本論文では,非負システムの極配置について考察している.非負システムでは,システムの非負性を維持したまま任意に極配置することが不可能であることに留意し,非負システムに固有のペロン根に着目して,固有値の存在領域を指定する(c, r)-極配置問題を提案している.そして,その可解条件を明らかにするとともに,状態フィードバックケインの設計法を線形計画の形式で与えている.