論文集抄録
〈Vol.55 No.7(2019年7月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ アファインな非線形基底を用いたパラメータ依存 LMIの解法

首都大学東京・児島 晃

本論文では, 単一パラメータの多項式に依存する LMI 条件に着目し,その次数に応じて Bernstein 基底を導入すると, 原問題が系統的にパラメータ非依存の LMI 条件に帰着できることを明らかにした.ここで Bernstein 基底とは, アファイン性を保つ多項式基底のひとつであり,多項式曲線のパラメータ化とベジェ曲線の生成に利用されてきたものである.またパラメータ区間を分割すると, 任意の精度で原問題の可解性が評価できることを示し,保守性が改善されるオーダーを分割幅により特徴づけている.


 

自律移動ロボットのロバストな位置推定のための相関係数による多数決センサ選択と統合

名古屋大学・大橋 臨,舟洞 佑記,道木 慎二,愛知工業大学・道木 加絵

多様な環境下で利用される自律移動ロボットにおいて,自己位置推定のロバスト化は重要な課題である.著者らは,様々な特性を持ったセンサを用いたロバストな位置推定システムについて研究している.先行研究において,多数決原理に基づく選択的統合法が提案された.これは,各センサから得るロボットの位置情報を確率分布によって表現し,確率分布間の類似性を評価,多数決原理に基づいてセンサを選択・統合する手法である.先行研究における実機実験において,選択的統合法の猶予構成は確認されたものの,類似性評価法の問題により適切なセンサ選択が行われない場合があった.本論文では,統合するセンサ情報をより適切に選択する手法を提案する.シミュレーションおよび実機実験において,様々な環境下で適切にセンサ選択が行われたことを確認した.


 

■ 2種類のばねと収縮ロック機構から構成される衝撃応答制御機構と天体着陸探査への応用

名古屋大学・齋藤 聡,原 進,宮田 喜久子,宇宙航空研究開発機構・大槻 真嗣

天体表面探査のための探査機の着陸時には,特定の高度から自由落下を行う.その着陸脚には不整地や斜面へ確実に着陸する能力が求められる.従来はハニカムクラッシュなどのように,構造材が塑性変形することより衝撃を吸収する機構を用いた着陸脚が多く採用されてきた.しかし,そのような着陸脚は宇宙機の転倒を効果的に防止することができず,不整地への着陸は困難である.また,再使用性がなく,信頼性の保証には地上検証試験費用が増大する等の問題が存在する.これらの問題を解決するため,本稿では再使用性のある複数のコイルばねを組合せ,着陸の応答に応じて伸縮ロック機構を動作させ,ばね定数を変化させることにより転倒を防止する新しい着陸脚機構を提案する.提案手法の傾斜地への着陸に対する有効性は数値シミュレーションによって検証する.特に,提案機構と従来のハニカムクラッシュを有する機構に対して,宇宙機の初期速度と姿勢角変動へのロバスト性を比較した.比較結果は、傾斜地への安全な着陸という観点において,提案機構の優位性を示した.


 

■ 移動ロボットを用いて制御理論を学ぶ実験カリキュラム

東洋大学・山川 聡子

制御理論に対する理解を深めるための実験教材として,いくつかのDCモータ実験装置が用いられている.DCモータの動特性は線形モデルで良く近似することができ,PID制御を用いて角度や角速度を制御することができる.しかし,モータだけでは機械系の学生の十分な興味を引き出せないことがある.そこで,本稿では学生の興味をひきやすい移動ロボットを用いて初歩的な線形制御を学ぶ実験カリキュラムを提案する.移動ロボットは非線形な運動モデルを持つが,線形制御の特徴を学ぶための教育題材として利用する.そのために,軌道制御則の設計・解析に線形近似モデルと厳密な線形化モデルを用いる.まず,線形近似モデルを用いて,ロボットの軌道制御にPID制御を用いた場合の解析と限界を述べる.つぎに,厳密な線形化手法にもとづいた制御則を用いることで,極と応答の関係など,線形制御理論で知られた結果が精度よくロボットの走行軌道として確かめられることを示す.これらの結果にもとづいて,安価な小型移動ロボットを用いた実験カリキュラムを提案し,実際に大学生対象の講義にて実施した.実験受講者のアンケート結果を示し,提案するカリキュラムの効果を述べる.


 

■ 並列仮想ばねを利用した自己釣り合い力を有するマルチエージェントシステムのフォーメーション制御

和歌山大学・田上 浩大,長瀬 賢二

本研究では,自己釣り合い力を有するマルチエージェントシステムの制御において,エージェント同士が重なる状況を除くすべての位置で大域的に収束が保証された制御系設計法の確立を目指す.自己釣り合い力を有するシステムの場合,目標形状の形成と自釣り合い力の発生という二つの制御目的を達成する必要がある.従来,自己釣り合い力を有する場合においても,各エージェント間に一つのばねのみを設定しているが,その場合,目標形状から離れた状況において,当初想定しない力の釣り合いの状況が生じる可能性がある.そこで本研究では,各エージェント間に,上記二つの制御目的に対応した二つの並列ばねを設定する.形状形成のためのばねを可変とすることで,目標形状から離れた場所では形状形成のばねを優先するなど,状況に応じた制御力の発生が可能となり,それにより,エージェント同士が重ならないとの仮定の下で,目標形状への収束が保証される.並列ばねは二つ以上に増やすことができ,より多くの設計要求を考慮することも可能である.本研究では,その一例として,衝突回避の特性を加えた制御系についても考える.その場合,単に初期状態でエージェント同士が重なっていなければ,目標形状への収束が保証される.


 

LaserVAEによる特徴量生成とその特徴量に基づいた大域自己位置推定

和歌山大学・脇田 翔平,中村 恭之,八谷 大岳

2次元レーザスキャナを利用してロボットが自律走行を行うために,スキャンマッチングを利用した自己位置推定法がこれまで数多く提案されてきた.センサから得られるスキャンから環境の形状を表す特徴量を生成し,その特徴量を利用して自己位置推定を行う研究例では,さまざまな特徴量生成法が提案されているが,移動物体などによるノイズやオクルージョンの影響により,自己位置推定に有用でない特徴量が生成される場合がある.実際にロボットを自律走行させる場合,走行する環境はさまざまであり,その環境毎に安定して生成できる特徴量が望まれている.
そこで,本研究では,移動ロボットの走行環境における自己位置推定に適した特徴量を自動で生成するために,Variational AutoEncoder (VAE)を独自に拡張したLaserVAEを提案する.LaserVAEは,スキャンを圧縮して特徴量を生成する機能と,生成した特徴量からスキャンの再構成を行う機能を有するマルチタスクニューラルネットワークであり,静的な環境だけでなく動的な環境においても使用可能な特徴量を生成することができるという特徴を持つ.本論文では,実際の屋内・屋外環境において大域的自己位置推定の実験を行い,LaserVAEの有効性を示す.