論文集抄録
〈Vol.55 No.9(2019年9月)〉

タイトル一覧
[LE2018シンポジウム特集号]

[論 文]

[ショート・ペーパー]

[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論  文]

■ 体幹部全体を安全にアシストする多関節装着型ロボットの実現に向けた逆運動学に基づく人体との接触力分布フィードバック制御の提案

名古屋大学・舟洞 佑記,内山 直哉,道木 慎二,愛知工業大学・道木 加絵

 体幹部全体を安全かつ能動的にアシスト可能な多関節装着型ロボットの制御法について議論する.複数の関節からなる体幹部においては,同一機構を持つロボットの製作が困難であり,人体と装着するロボットの関節部が明確に対応しない.従来の関節レベルでの角度制限・出力制限では安全性が担保できない可能性がある.著者らは,ロボット表面に面状圧力センサを配置した多関節装着型ロボットにおいて,ロボットが人体に加えている接触力分布を直接計測,接触力分布をフィードバックする制御系を構築することで,体幹部においても安全なアシストの実現を目指している.これまで,接触力分布情報を制御に利用することで,安全性向上に一定の効果がある事を示したが,既存の関節独立な制御系の枠組みに則った手法であったため,人間が許容可能な痛覚耐性限界値以上の力を加えていた.本論文では,シリアルリンク型マニピュレータにおける運動学の知見に基づき複数関節を協調して制御することで,痛覚耐性限界値より十分小さい範囲に接触力を抑えることが可能な手法を紹介する.実際の人間の屈曲動作を反映したシミュレーションにより,手法の安全性とアシスト可能性を痛覚耐性限界値から定量的に評価する.


 

■ パワーアシストロボットのAssist-as-Needed適応速度場制御

豊田工業大学・成清 辰生,Hamed JABBARI ASL,山藤 祐希,川西 通裕

  本研究では,装着者とロボットとのダイナミックな相互作用を考慮した数式モデルに基づく新たな適応制御系を提案した.提案する制御系は,速度場を目標値とする速度場制御系であり,装着者自身が自ら上肢・下肢を動かして目標速度に追従するときはロボットの支援は小さく,装着者の発揮する力・トルクが小さく,目標速度との誤差が大きいときは支援を大きくして目標速度に追従させる制御を行うAAN(Assist as Needed)特性を有している.提案する制御系では,射影演算子を用いたニューラルネットワークの重み行列の更新則やDeadzone関数により入力制約と閉ループ系の一様終局有界性(Uniformly Ultimate Boundedness)が厳密に保証される.目標速度場は健常者の歩行データから,歩容を一様3次スプライン関数でパラメータ表示することで,全作業空間上で設計した.実験結果により,(1) 追従精度と力・トルク支援の大きさを二つのパラメータで指定できること,(2) 装着者の発揮トルクに適応したロボットによるトルク支援が可能であることを示した.


 

■ 脳波の平均周波数と3重相関値によるアルツハイマー型認知症およびレヴィ小体型認知症の解析

東京工業大学/脳機能研究所・渡邉 ゆり,ニプロ・小林 洋平,
脳機能研究所・田中 美枝子,関東中央病院・織茂 智之,
東京医科歯科大学・朝田 隆,東京工業大学・八木 透

  近年,わが国では高齢者の増加に伴い,認知症高齢者も増加を続けている.厚生労働省の推計によると、2025年には約700万人に達し,65歳以上の高齢者の約5人に1人を占める見込みである。各種の認知症の根本的治療方法はいまだ確立されていないが早期に発見し,治療を開始することで進行を遅らすことは可能である。
そこで我々は,簡便な方法で脳波を測定し,医療機関だけでなく,自宅等で簡単に認知症の推定ができるシステムの構築を目指す。本論文では,3電極という少数電極を用いて1分間の脳波から,健常者とアルツハイマー型認知症患者(AD)及び,レヴィ小体型認知症患者(DLB)を推定する手法を提案した.医療機関で取得したデータに対して提案手法を適用したところ, AD群,DLB群,どちらの認知症群も,3重相関値の空間的方向と時間軸方向のゆらぎの両方が健常高齢者群に比べて乱れる結果を得た.また,認知症患者に見られる徐波化の特徴と組み合わせることで,AD群とNLC群, DLB群とNLC群を,それぞれ81%, 89%の正解率で判別可能であることを示した.


 

■ 点滅視覚刺激の呈示時における金魚の視蓋神経細胞の追随性

名古屋工業大学・鈴木 柚子,中部大学・三木 俊太郎,
名古屋工業大学/国立長寿医療研究センター・船瀬 新王,
名古屋工業大学・内匠 逸,聖マリアンナ医科大学・藤原 清悦,中部大学・平田 豊

  BCI研究で使用されるSSVEPのような高頻度視覚刺激に対して中枢神経系がどのように脳波を発生させるかについてほとんど知られていない.そこで,高頻度刺激に対する中枢神経系の反応を明らかにするために,単純な神経経路を持ち網膜から直接視覚情報が入力される金魚の視蓋に着目する.本稿では高頻度刺激に対する視蓋内のニューロンの追随性を明らかにすることを目的とする.本研究では,金魚の瞳孔に1[Hz],15[Hz]の点滅視覚刺激を呈示し,視蓋から細胞外記録で計測した.記録した波形に対してスパイクソーティングを行い,ユニットを同定した.その結果,1[Hz]でON反応またはOFF反応が見られたユニットの大半は,15[Hz]の点滅視覚刺激には反応しなかった.これに対し,1[Hz]でON-OFF反応が見られたユニットの大半は,15[Hz]の点滅視覚刺激でもON反応またはOFF反応が見られた.また,1[Hz]でON-OFF反応が見られたユニットの潜時に着目すると,OFF反応の潜時がON反応の潜時よりも有意に短いことを示した.これらの結果は,低い周波数の視覚刺激でON-OFF反応を示すユニットは高い周波数の刺激に対して追随性を持つことを示唆している.


 

■ 足の筋力発揮パターンを用いた眠気検出の試み

 東京工業大学・遠藤 源基,林 直亨

  眠気は,ヒューマンエラーや交通事故を引き起こす.交通事故全体の要因の約20%を占めている.これまでにも脳波(EEG)や,聴覚刺激や視覚刺激に対する反応時間を用いた運転中の眠気を検出する試みがなされてきた.しかし,これらの方法を運転中に応用することは現実的ではない.本研究では,自動車のアクセルペダルを模した装置を踏む足の筋力発揮パターンに及ぼす眠気の影響を明らかにし,眠気検出の可能性を探索することを目的とした.被験者13名には45分間の実験中,自動車のアクセルペダルを模した装置上で正味20Nの筋力を連続して発揮するよう指示した.また,スタンフォード眠気スケールを用いて,主観的眠気も調査した. 1分毎の筋力の変動係数(CV)を主観的眠気の数値毎にまとめた.その結果,眠気を感じていない時は,CVが0.2未満の割合が高かったのに対して,強い眠気を感じている時はCVが0.2以上または負の値の割合が高くなった.アクセルペダルを踏む際の足の筋力のCVを用いることで眠気を検出できる可能性が示唆された.


[ショートペーパー]

触覚センサを用いた脈波伝搬時間計測手法の検討

名城大学・大岸 優大,向井 利春

 腕帯(カフ)を使用しない血圧推定方法として,心電図と指先などで得られた脈波の時間差である脈波伝搬時間(PTT)を用いた研究が数多くなされている.しかし,これらの研究の多くはPTTを計測するために電極やセンサを装着する必要があり,日常的な測定には不向きである.そこで我々は薄く柔軟な触覚センサ上に横になるだけでPTTを計測する手法を提案する.触覚センサ上に人が横になると呼吸,心拍,体動などが含まれた圧力時系列が計測でき,適切な信号処理を施すことでPTTを計測できると考えられる.また,脈波センサによる従来手法との比較実験を計測時間2分間,被験者3名で行った.実験では,触覚センサと脈波センサのPTT計測部位が異なるため,PTTの値は異なるが,変化の傾向は同じであると期待できる.そのため,2つのPTTの相互相関値を算出した.結果,提案手法と従来手法の2つで得られたPTTの相互相関値が平均0.91であった.これより,触覚センサを使用した無拘束PTT計測が可能であると考えられる.本論文では,提案手法と比較実験を詳細に述べる.


 

■ リアプノフの安定性理論に基づく4叉移動機構の経路追従制御とその検証

 青山学院大学・佐藤 嵩浩,山口 博明,米澤 直晃,河上 篤史

 本論文では,体形の周期的な変化を移動に変換する波動歩行機械の1つである4叉移動機構のリアプノフの安定性理論に基づく経路追従フィードバック制御法を,新たに提案した.本4叉移動機構は,正方形のベースの4つの頂点に回転関節を介してリンクが連結され,これら4つのリンクの先端に受動車輪からなるステアリングが取り付けられた構造を有し,4つの回転関節の周期的な駆動と4つのステアリングの周期的な操舵により,正方形のベースの移動と回転を実現している.特に,本4叉移動機構では,正方形のベースの位置・姿勢,4つのリンクの姿勢とは独立に,4つのステアリングの転がる向きを操作することができる.これにより,正方形のベースの重心を目標経路上の目標点に追従させながら,その姿勢を目標点における目標経路の接線方向に向ける経路追従動作を実現すると同時に,回転関節の駆動を移動に変換できない特異姿勢を避けながら,各リンクの目標経路の接線方向に対する相対姿勢の目標周期関数への収束を実現することができる.言い換えれば,正方形のベースと4つのリンクの運動を定量的に指定することができる.本制御方法の有効性は,9次のベジェ曲線で計画される目標経路への追従動作実験を通して確認されている.


 

■ ランプダウン現象が引き起こす周波数変動と需給運用・負荷周波数制御

東海大学・石丸 将愛

 近年,再生可能エネルギー電源の電力系統への導入が進んでいる.この背景には,再生可能エネルギーの買い取り制度が影響している.再生可能エネルギー電源の電力系統連系は世界的な潮流であるが,我が国ではとりわけ,太陽光発電の導入が西日本で加速している.九州の電力会社の管内では,好天候に恵まれた日には管内の電力需要に比して,大量の太陽光発電電力が得られ,余剰電力として持て余してしまう事例が報告されている.太陽光発電からの出力は安定していないだけでなく,長時間に亘って大きく出力変動するランプ現象が観測されており,電力系統の周波数に甚大な影響を及ぼすことが問題となっている.
需給・周波数変動制御の研究において,客観的評価が可能な解析モデルに対するニーズに応えるため,電力需給と周波数を解析するための標準モデルが開発された.
本研究では,標準モデルを拡張し,長時間のシミュレーションが可能なシステムを開発した.これにより,ランプアップ/ダウン現象を中心に前後数時間のシミュレーションを実行することが可能となった.さらには,ランプダウン現象が引き起こす周波数変動への対処についても提案した.


[ショートペーパー]

■ 非局所境界条件に無駄時間を含む1階双曲型システムに対するオブザーバ誤差システムのL2-安定性

神戸大学・佐野 英樹,若生 将史,丸山 颯天

 本稿では, 非局所境界条件に無駄時間を有する1階双曲型システムの, オブザーバ設計に係わる問題を取り上げる. 筆者らによる先の研究では, そのシステムに対する無限次元オブザーバがバックステッピング法を用いて構成され, 誤差システムの古典解が有限時間で安定化されることが示された. 本稿では, 誤差システムのL2-安定性に焦点を絞り, 誤差システムを記述する作用素が拡大されたL2-空間でベキ零半群を生成することを示す. その結果, 誤差システムの初期値が属すべき関数空間が拡げられる.