論文集抄録
〈Vol.56 No.10(2020年10月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ 経路探索問題に対して深層学習との併用により汎化能力を向上させた強化学習法

京都工芸繊維大学・飯間 等,大西 鴻哉

近年,深層学習や強化学習が様々な分野で高い性能を示しており,多くの注目を集めている.これらの機械学習法を実際の問題に適用するためには,それらが十分な汎化能力を有していなければならない.画像認識や音声認識などの分野では汎化能力の向上が活発に研究されているが,ゲームプレイや経路探索のような逐次的に意思決定を行う問題に対しては研究があまり進んでいない.そこで本論文では,逐次意思決定問題の1つである経路探索問題に対して,深層学習を併用することで汎化能力を向上させた強化学習法を提案する.数値実験を通して,提案法が汎化能力に優れていることを示す.


 

■ 複数の分析関心に基づく社会シミュレーション・ログの階層的分類と可視化手法

岩手県立大学・後藤 裕介

多様な関与者が関わる複雑な社会システムのシミュレーションは複数の分析関心から結果の評価が行われうる.本研究では,社会シミュレーション・ログを複数の分析関心に沿って階層的に分類し,分類結果の頻度に基づいて可視化を行う手法を提案する.提案手法は分岐分類学の概念を取り入れたもので,社会シミュレーションのログを種の分類を行うように階層的に分類していく.分析者は可能性のクラドグラムと呼ばれるシミュレーションログの階層的分類図を作成して,ありえる帰結の頻度を直感的に把握することが可能になる.我々は提案手法をSchellingの分居モデルに適用して,設定した分析関心から可能性のクラドグラムを描画した.そして作成した可能性のクラドグラムを利用してログ集合の階層的な分類を参照することで,シナリオ分析における後工程であるミクロダイナミクス分析の有効な実施を支援することを分析例を示すことで確認した.そして,有用性に相当する可視化便益の実現の観点と可視化方法としての妥当性の観点の2観点から提案手法の評価を行った.


 

■区間むだ時間系に対する有界実補題の導出

東京都立大学・児島 晃,群馬大学・端倉 弘太郎

有界実補題は,制御系のロバスト性を評価する鍵となる手法を与えるものであり,本手法から様々な対象に対するロバスト制御法が確立されてきた.本論文では,入出力および状態にむだ時間をもつ区間むだ時間系に着目し,有界実補題を必要十分条件の形で導く.区間むだ時間系はある変動範囲のむだ時間をもつ系を集合的に定めたものであり,対応する有界実補題は,むだ時間と独立のパラメータ依存システムにより表わされる.さらに,パラメータ領域の分割から原問題の可解性(必要十分条件)が,パラメータ非依存のLMI条件に帰着できることを明らかにする.


 

■ さまざまな発火パターンを実現するリカレントスパイキングニューラルネットワークの学習法とその応用

関西大学・黒江 康明,京都工芸繊維大学・飯間 等,関西大学・前田 裕

生体のニューラルネットワークにはバースト発火や周期発火などの特徴的な発火パターンが多数存在する.一方,スパイキングニューラルネットワーク(SNN)は,スパイクの発生時刻,発生密度に情報が埋め込まれ,より生体に近いモデルとして注目されている.本論文の目的は,リカレントSNNを対象とし,様々な発火パターンを実現するための学習法を提案すること,およびその応用について議論することである.そのためまず,生体ニューロンのバースト発火や周期発火をはじめとして,スパイクが発生する時刻,回数,符号に着目する様々な発火パターンを実現するための学習問題を定式化し,それらに応じて目的関数を提案する.提案するこれらの目的関数は学習パラメータについて微分可能でないため,提案する方法はparticle swarm optimizationを用いた学習法となっている.提案した方法の有効性を確認するため,いくつかの発火パターンを実現する学習問題を設定し,提案法を用いてそれら学習問題を解く数値実験を行いその結果を示す.また提案した学習法の応用として,視覚系の特徴抽出モデルの構築の問題に適用し,その有効性を示す.