論文集抄録
〈Vol.56 No.2(2020年2月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[ショート・ペーパー]

[開発・技術ノート]


[論  文]

■ 二酸化炭素の鉛直プロファイルを現地観測するドローンシステムの試作開発と飛行試験

秋田県立大学・間所 洋和,井上 誠,永吉 武志,
千葉 崇,芳賀 ゆうみ,木口 倫,佐藤 和人

 本論文では,温室効果ガスのひとつである二酸化炭素(CO2)を現地観測する新しいアプローチとして,ドローンを利用した観測システムを提案する.本システムでは,市販の産業用ドローンに非分散型赤外線吸収のアナライザを搭載し,CO2濃度の鉛直プロファイルを簡易に得ることができる.ドローンにアナライザを搭載するために専用設計したマウントは,カーボンプレート,アルミ中空パイプ,3Dプリンタにより造形した樹脂製のアダプタから構成される.国土交通省から高度150 m以上の飛行および目視外飛行の許可を得た後,飛行試験を5回実施し,高度500 mまでのCO2濃度の鉛直プロファイルを取得した.観測されたCO2の分布様式は観測日により異なるが,高度とともに濃度が高くなる傾向が認められた.さらに,2017年9月~2018年1月の観測から,季節変動の影響によると思われるCO2濃度変化が認められた.


 

■ ベクトル型可変忘却要素付き逐次最小二乗法を用いた非定常雑音下における原子時計の内部状態推定

慶應義塾大学・馬渕 俊一郎,平野 将人,
足立 修一,情報通信研究機構 ・井戸 哲也,花土 ゆう子

 原子時計の発明はその応用である時系のように時間計測も精度を劇的に向上させた.しかし,高品質の原子時計であっても誤差,つまり時刻差を蓄積する.こうした理由からこの差を修正することは根本的な問題である.本稿では,複数の原子時計システムに対するベクトル型可変忘却要素付き逐次最小二乗法を用いた推定法を提案する.原子時計システムでは時刻差を高精度に推定することが最も重要な課題である.原子時計は原子の遷移周波数をカウントすることで正確な1秒を刻んでいるが,環境的な要因により,周波数は異常なふるまいをすることがある.提案法はベクトル型の忘却要素をもち,その要素は各原子時計に割り当てられる.そして,時計の周波数の安定度に基づいて逐次的に忘却要素を決定することで高精度な推定を行なう.そして,提案法の有用性を数値例を用いて検証する.


 

■ リアルタイム制御システムのネットワークセキュリティを強化する低遅延ファイアウォール

日立製作所・岩澤 寛,遠藤 浩通,
丸山 龍也,松本 典剛,山田 勉

  産業制御システムにおけるサイバーセキュリティ対策としてファイアウォールなどを考える場合,遅延時間がリアルタイム制御ループのタイミング制約に影響を及ぼしかねないという課題がある.この課題を解決するため,ごく短くかつ確定的な遅延時間でフィルタリング機能を実現する「リアルタイムファイアウォール」(RT-FW)を提案する.このRT-FWではEthernet通信フレームのFCS(誤り検知符号)領域を変更することで不正な通信を無効化する「オンザフライ方式」を採用することで遅延時間の極小化を狙った.また,シグネチャパターンの検知にShift-and法を採用することで効率的な実装を狙った.われわれはこのRT-FWについてFPGAを用いて試作および評価を行い,1)100BASE-TXの最大伝送速度で問題なくフィルタリング動作が可能であること,2)遅延時間が2.12μs~2.2μsと短くかつほぼ一定で,フレームサイズや実装された検知パターン数に依存しないことを確認した.


 

■ ニューラルネットワークを用いた電力市場における前日計画法-再生可能エネルギーの不確かさのもとでの取引戦略-

東京工業大学・渡邉 郁弥,川口 貴弘,石崎 孝幸,
宇宙航空研究開発機構・竹中 栄晶,東海大学・中島 孝,東京工業大学・井村 順一

 本論文では,一日前市場と呼ばれる電力市場における,ニューラルネットワークを用いた前日計画法を提案する.一日前市場では,実際に電力を受け渡す前日までに,電力需給の計画値を決定し入札する.計画値と実際に受け渡す電力に差が生じた場合には,高額なペナルティを支払う必要があり,このペナルティを抑えつつ,収入を最大化する計画を行うことが重要である.著者らはこれまで,再生可能エネルギーの不確実性のもとで,適切な計画値を決定するモデルを,機械学習を用いて構築することを提案してきた.しかし,従来の方法では解くべき最適化問題の計算時間と必要メモリ容量がデータ数の増加に対して2乗のオーダで増加し,大量のデータを効果的に用いることが困難であるという問題点があった.これに対し,本論文ではデータ数の増加に対応可能なニューラルネットワークを計画関数のモデルとして採用し,計画によって得られる利益を評価関数として学習を行うことを提案する.特に,ニューラルネットワークのパラメータに関する利益の勾配を求める方法を導出し,計画関数モデルの学習アルゴリズムについて述べる.最後に,多数データの利用可能性とその効果という観点から,数値例を通して提案手法の有用性を検証する.


[ショート・ペーパー]

■ μ-マルコフモデルを用いた自動車用二次電池の内部インピーダンスの推定

 慶應義塾大学・佐々木 理沙子,東京工業大学・川口 貴弘,
京都大学・丸田 一郎,慶應義塾大学・足立 修一,マレリ・片芝 惇平,長村 謙介

 停車時にエンジンを自動停止し,発進時に再始動するアイドリングストップ機能をもつ自動車に搭載される二次電池を考える.エンジンの再始動には大電力が必要なため,アイドリングストップの実施時には二次電池から十分な電力を取り出せるかを事前に確認する必要がある.本研究では利用可能な電力の計算に用いるための,内部インピーダンスの動特性を反映した特徴量を定義する.具体的には,特定の時間,一定電流を流したときの内部インピーダンスによる電圧降下と一定電流の大きさとの比を特徴量と定義する.そして,この特徴量を電流や電圧のデータから推定する方法について考察する.特徴量の推定の観点からは,内部インピーダンスに対してモデルの構造を仮定せず,かつ,推定すべきパラメータ数が必要最小限であることが重要である.この性質を満たすために,μ-マルコフモデルを用いることを提案する.数値例を通してμ-マルコフモデルの有用性を確認する.


[開発・技術ノート]

回転型柔軟アームの先端加速度による時間遅延を補償した振動抑制

岡山大学・西岡 由恭,大内 凌華,今井 純,高橋 明子,舩曳 繁之

 本報告は1次元回転型柔軟アームにおいて先端加速度計を用いた振動抑制法について述べる。このアプローチは駆動側の角度センサにもとづいたメジャーループのサーボ系の内側に,負荷側の加速度のフィードバックにより先端振動を抑制するマイナーループをモデルベースにより設計するものである。マイナーループの設計には,アームの1次振動モードにもとづくLQ設計とともに駆動側から負荷側への伝送遅延を陽に考慮したスミス補償を併用している。アームの柔軟性を伝送遅延としてモデル化して扱うことがセンサとアクチュエータがノンコロケートな場合の振動抑制に有用であることを,シミュレーションと実験結果により明らかにしている.