論文集抄録
〈Vol.56 No.3(2020年3月)〉

タイトル一覧
[第6回制御部門マルチシンポジウム論文特集号]

[論 文]


[論  文]

■ モデル予測制御方式を用いたスパース制御の実現-制御則のオフライン計算とその表現法-

南山大学・岩田 拓海,大石 泰章,北九州市立大学・永原 正章

 オフライン計算に基づくモデル予測制御を使って,スパース制御を実現することについて考える.従来のスパース制御は開ループ型であるので,これを閉ループ型にするために,モデル予測制御方式を使う.スパース制御の入力は基本的に3つの値しかとらないので,状態空間中にそれぞれの入力値に対応する3つの集合を計算すれば,現在の状態がどの集合に属すかを判定するだけでスパース制御が実行できる.ただし,これらの集合は多面体ではなく,凸でもないので,その表現や計算には工夫が必要である.本論文では,これらの集合の近似表現を,特に原点付近での精度に留意して求めるために,特別な座標変換を使うことを提案する.提案した方法の有用性を数値例によって示す.


 

■ 外乱を含む実機UGVを用いた移動体追従ネットワーク制御

横浜国立大学・加太 宏明,上野 誠也,防衛装備庁先進技術推進センター・土橋 純也

 移動体を追従し,継続的に基地局でモニターするための通信ネットワーク形成およびUGV群の位置制御則を提案する.取得された移動体の情報はUGV群が構成する移動体追従ネットワークを介して基地局に送信される.それぞれのUGVは,ローカルな情報のみを用いたバーチャルフォースにより通信ネットワークの形成および移動量の算出を行う.本研究で用いる実機UGVの移動に誤差が発生するため,修正位置制御則を導入する.数値シミュレーションおよび実験により制御則の有効性を確認した.


 

■ 観測信号と操作信号の損失にロバストなラウンドロビンスケジューリング切り替え制御系

奈良先端科学技術大学院大学・蓼沼 知秀,小蔵 正輝,杉本 謙二

 本論文ではネットワーク化制御系におけるフィードバック制御器の設計法を提案する.ラウンドロビンスケジューリング通信規約の下,センサから制御器,および制御器からアクチュエータという双方向の通信路にパケット損失が生じる場合を考える.連続する損失パケット数の上限が既知であり,かつ損失が生じたかどうかの確認信号は遅延や損失なく受けとるものと仮定する.提案の制御器は経過時間に応じてゲインを切り替える状態推定器,および推定された状態のフィードバックから構成される.これにより単独のゲインを用いた設計よりも保守性が軽減される.これらのゲインは切り替えLyapunov関数から導出される線形行列不等式(十分条件)によって設計する.提案法の有効性は数値シミュレーションによって検証する.


 

■ Virtual Internal Model Tuningによる二自由度制御系のデータ駆動型更新

電気通信大学・池崎 太一,金子 修

 本論文では,二自由度制御系の二つの制御器を更新するあたらしいアプローチとして,VIMTを用いて応答特性と閉ループ特性を更新する手法を提案する.とくに,ここでは,閉ループ系特性の安定性に直結する一巡伝達関数に着目し,フィードバック部のみの更新で一巡伝達関数を所望の特性へ近づけるような更新を行うとともに,更新に用いた仮想モデルを実際に求めることにより目標応答追従性能の向上も同時に行う手法を提案する.最後にこの手法の有用性を数値例にて検証する.


 

マクロ交通流モデルに基づくサイバーフィジカル最適信号機制御とミクロ交通シミュレータを用いた検証

 

東京工業大学・檀 隼人,岡本 僚太,大阪大学・畑中 健志,
工学院大学・向井 正和,早稲田大学・飯野 穣

 本論文では交通渋滞の解消に向け,物理ダイナミクスと最適化アルゴリズムの相互接続を考慮したサイバーフィジカル最適信号機制御システムを提案する.はじめに,各道路上を走る車両台数の時間変化を表すマクロ交通流モデルを示す.つぎに,このモデルを用いた,渋滞最小化の観点で最適となる定常状態,および入力を求める最適化問題を定式化する.また,この問題の部分的主双対勾配アルゴリズムに基づいた分散的解法を示す.このとき,交通流モデルを最適化処理の一部としてアルゴリズムに含めることができるため,目的のサイバーフィジカルシステムを得る.さらに,このシステムの定常外乱に対する漸近最適性,時変外乱に対する入出力安定性を示す.最後に,実時間フィードバックが可能なミクロ交通シミュレータであるUC-win/Roadを用いてアルゴリズムの検証を行う.検証では最適化問題の評価関数値が固定時間での信号機制御手法と比べ50%削減されることを確
認する.


 

■ 不連続な変化を伴う制御対象へのモンテカルロモデル予測制御の適用-台車の衝突を考慮した台車型倒立振子の振り上げ高速化と安定制御-

 筑波大学・仲谷 真太朗,伊達 央

 本稿は,不連続な変化を伴うシステムへのモンテカルロモデル予測制御の適用について記述している.一般的な力学系のシステムは衝突などの不連続な現象が生起するタイミングで,状態量のうち速度に関する項が不連続に変化することが知られている.モデル予測制御として広く用いられている勾配法を利用し最適解を導出する手法では,このような不連続な変化を伴うシステムを制御することは困難である.一方で,我々が本稿で提案するモンテカルロモデル予測制御は,最適解を導出する際に勾配情報を使用しないため,不連続な変化を伴うシステムに対しても自然に適用することができる.
 そこで,われわれは,台車型倒立振子の振り上げ安定化の問題において,台車を壁に衝突させた際に発生する撃力を利用した制御の問題を考えた.この問題においては,撃力を予測に織り込んだ上で最適解を導出できる制御器であれば,振り上げ高速化が実現できることが確認されている.
本稿では,シミュレーションと実機実験の結果をもとにモンテカルロモデル予測制御が,不連続な現象を伴うシステムに対しても自然に適用可能で,不連続な現象を有効に利用した制御が実現できることを紹介している.


 

■ 障害物配置法を用いた航空管制のための到着軌道最適化手法-セクタを考慮したベクタリング軌道最適化-

海上・港湾・航空技術研究所 電子航法研究所・虎谷 大地, 平林 博子,中村 陽一

 GPSに代表される航法システムの発展により,民間航空機は従来と比較して柔軟な経路を飛行できるようになった.これを受け,先行研究では現実的な民間航空機モデルを考慮した軌道最適化手法が広く研究されてきた.これらの研究では,航空機は平面上の制約なく飛行可能であると仮定されていたが,依然として民間航空機の経路設計はセクタ境界のような運用上の制約を有しており,完全に自由な経路を選択できるわけではない.
そこで本稿では,セクタ境界による拘束条件を考慮した,民間航空機の軌道最適化手法を示す.障害物配置法と呼ばれる,経路拘束を柔軟に設定可能な手法を最適制御理論に基づく軌道最適化手法に導入し,現実的なセクタ境界を表現していく.
  提案した手法の有効性を示すため,実際のレーダーデータを参考に条件を設定した数値シミュレーションを行った.シミュレーション結果より,障害物配置法を用いた軌道最適化手法で,レーダーデータと同等の軌道を生成できることが示された.また,より燃料消費量を抑えるためには,航空機の経路延伸を行うベクタリングより,飛行速度を調整することによる,到着時間の調整が有効であることが示された.


 

■ 制御バリア関数を用いた電動車いすのヒューマンアシスト制御

東京理科大学・林 優花,中村 文一

 電動車いすは高齢者の移動手段を確保する重要な役割を担っている一方で,操作ミスによる事故が発生している.電動車いすや自動車の運転ミスなど,人間の操作ミスに起因する事故の低減は現代社会の大きな課題であり,人間の操作をアシストするヒューマンアシスト制御が注目されている.
この問題に対し,中村らは拡張制御バリア関数を用いたヒューマンアシスト制御法を提案した.しかし,提案されたヒューマンアシスト制御は操作性・安全性の観点から設計自由度が少なく,電動車いすに適用することは難しかった.
 そこで,本論文は電動車いすに適用することができるヒューマンアシスト制御の設計を目標とし,アシストプロファイル関数を用いたヒューマンアシスト制御を提案する.本論文では,提案したヒューマンアシスト制御が人間の与える任意の入力に対して制御システムの安全性を保障することを証明した.さらに,ヒューマンアシスト制御が安全性を保証する入力の中でユークリッドノルムが最小となる最適性を持つことおよび,人間の操作入力が連続である場合に提案するヒューマンアシスト制御入力が連続写像になることを示す.また,提案した制御法の有効性を,シミュレーションおよび電動車いすを用いた実機実験により明らかにする.


 

■ フィードバック誤差学習制御におけるフィルタ設計と強正実性の達成

奈良先端科学技術大学院大学・今林 亘,韓 心又,小蔵 正輝,杉本 謙二

 フィードバック誤差学習(feedback error learning: FEL)制御では, 2自由度構造においてフィードバック(FB)制御器が閉ループを安定化しているとの前提の下,フィードフォワード(FF)制御器のオンライン調整で望ましい 応答を達成する.著者らは,制御対象の相対次数が0か1であるとき, ある種の強正実性条件の下で任意の目標信号に対して出力誤差が0に収束するFEL 制御のパラメータ調整則を提案した.しかしこの条件はたとえ制御対象がバイプロパ や相対次数1であっても満たされるとは限らない.
 本論文ではFF制御器に含まれる フィルタの設計により強正実条件を満たす手法を提案する.これは i) 制御対象 の公称モデルを元にしたLMI (linear matrixi nequality)を解く方法,および ii) 制御対象のモデルパラメータが既知のポリトープに含まれるとき,その端点 を用いた連立LMIsを解く方法により達成される.また,提案法の有効性を数値例 により確認する.


 

■ 油圧ショベルのアタッチメント合成重心速度に基づく掘削アシスト制御系の一設計

広島大学・洪水 雅俊,山本 透,コベルコ建機・小岩井 一茂,山下 耕治,山﨑 洋一郎

 建設業界では,少子高齢化に伴う生産年齢人口の低下が問題となっている.とくに,優れた技術を有する熟練作業者の減少は著しく,現場全体の生産性低下が懸念されている.建設現場で広く用いられる油圧ショベルはこの生産性に大きく寄与する一方で,その操作には高い技量が求められる.熟練オペレータの場合,スムーズで優れた動作を適切な操作によって実現し,生産性の高い作業を行うことができる.しかし,非熟練者の場合,このような動きを実現することは難しく,技量に依らず優れた作業を実現するための施策が求められる.
 本論文では,非熟練者であってもスムーズで生産性の高い掘削作業を実現する制御系を新たに提案する.提案法では,熟練オペレータのように掘削作業中のアタッチメント合成重心速度が一定となるように,調整操作であるブーム上げ操作をアシストする.さらに,コントローラパラメータの調整にFictitious Reference Iterative Tuning (FRIT) 法を適用することで,所望の動特性を有したアタッチメント合成重心速度を実現する.提案法を油圧ショベル実機に適用し,その有効性を検証する.


 

■ ポテンシャル法と深層強化学習を用いたクアッドロータの自律的障害物回避

明治大学・白石 大介,市原 裕之

 クワッドロータなどの移動ロボットの行動計画では,障害物を回避するためにポテンシャル法は有用な手法として知られている.とくに,人工ポテンシャル法は移動ロボット,障害物,目的地の位置から取るべき行動を参照信号として生成することができる.しかしながら,人工ポテンシャル法は高速で移動するクアッドロータなどの速度から生じる慣性の影響を考慮しないため,所望の経路を外れ障害物に衝突する危険がある.そこで,本論文では人工ポテンシャル法から生成する参照信号に加え,慣性による影響を考慮した追加の参照信号を方策勾配法に基づいた深層強化学習によって生成する.追加の参照信号のおかげで,クアッドロータは所望の経路から大きく外れることなく目的地へ向かうことができるようになる.


 

■ 舌運動リハビリテーションシステムのダイナミクス設計と患者の運動能力に応じた自動調整法

鳥取大学・中谷 真太朗,京都大学・桜間 一徳,鳥取大学・西田 信一郎

 本論文では,ディスプレイ上のカーソルをターゲットに対して操作させるような舌運動を対象としたリハビリテーションシステムの設計法について述べる。リハビリテーション訓練において被験者は異なる運動能力を持つため,適切な操作感と運動負荷は個人によって異なってしまう。われわれは所望の応答が取る軌道を被験者に応じて調整することで,この問題を解決することを考えた。生体の運動を参考にして作られたtime base generator (TBG)を所望のカーソル軌道を得るための応答として定義し,個人に応じたシステムの調整のためにfictitious reference iterative tuning (FRIT)のアプローチを利用した。最後に,提案法によって得られる効果をシミュレーションによって確認した.


 

■ 予混合的なディーゼル燃焼のモデルベースト制御-ランダムアクセル操作条件における制御システムの評価-

東京大学・高橋 幹,山崎 由大,金子 成彦,熊本大学・藤井 聖也,
水本 郁朗,宇都宮大学・林 知史,旭 輝彦,平田 光男

 従来のエンジン制御は事前の膨大な実験から構築した制御マップを用いて行ってきたが,次世代の高効率低公害な燃焼の導入に向け,燃焼のロバスト性を確保するには実験数のさらなる増加が見込まれる.そこで,著者らは次世代の予混合的燃焼を行うディーゼルエンジンを対象に,可能な限り物理に基づいた計算負荷の軽い制御モデルを構築し,モデルに基づく制御系設計に取り組んできた.本報では,著者らがこれまでに構築した制御モデル,それをもとに構築した燃焼FF,FB制御器および吸排気FF,FB制御器を統合実装したモデルベースト制御システムを用いて,路上を想定したランダムなアクセル操作条件下で制御システムの評価を行った.その結果,EGRや過給圧を制御する吸排気系の制御は良好な制御性能を示し,また,燃料噴射を制御する燃焼系の制御は,燃焼が継続的に行われている場合には,制御マップを用いなくとも目標値追従ができることを示した.なお,燃料カットからの復帰などの条件において燃焼制御系ではオーバーシュートやアンダーシュートが見られ,制御モデルの改善,燃焼FB制御のパラメータの調整に加え,予混合型燃焼を対象とした過渡目標値の設定方法についての検討が今後の課題となる.