論文集抄録
〈Vol.56 No.4(2020年4月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ FBGセンサを用いた血圧予測における脈波パターンの影響

信州大学・千野 駿,石澤 広明,児山 祥平,
藤本 佳作,倉沢 進太郎,片山 杏子

高齢者の増加に伴い,健康モニタを目的としたバイタルサインの常時測定デバイスの需要が増えている.われわれは光ファイバ型歪センサであるFiber Bragg Grating(FBG)センサを用いてウェアラブルバイタルサイン測定器の開発を目指している.本報告ではFBGセンサを用いて高齢者における血圧予測が可能であるか検証することを目的としている.脈波パターンがそれぞれ異なる高齢者7名を被験者としFBGセンサにより測定した脈波からPLSR(Partial Least SquaresRegression)により検量モデルを構築し血圧予測を行った.その結果,全体の血圧予測誤差は収縮期では6 mmHg, 拡張期では4mmHgとなり,高齢者におけるFBGセンサを用いた血圧予測の可能性が示された.それに加え,より高精度な血圧予測のための検量モデル構築の可能性が示唆された.


 

■ システム蘇生変換を用いた入力アフィン非線形システムに対するレギュレーション写像設計

東京理科大学・高井 麻希,首代 博貴,中村 文一

移動体のヒューマンエラーによって引き起こされる事故を回避する技術の確立は社会における重要な課題である.近年,状態制約問題に対処するためにシステム蘇生変換による制御法が提案されている.また, viability theoryに基づいてレギュレーション写像を設計することでシステムの安全性を保証する手法がある.そこで,本論文では入力アフィン非線形システムに対してviability theoryに基づきシステム蘇生変換を用いてレギュレーション写像設計を行うことで,人間がどのような入力を与えても状態制約を満足しシステムが安全な領域内に留まり続けるような制御法を提案する.まず,入力アフィン非線形システムに対してシステム蘇生変換を用いて状態空間が安全な領域となることを示す.つぎに,入力アフィン非線形システムに対し人間の操作下におけるレギュレーション写像の設計法を示す.最後に例題を用いて提案法の有効性を示す.


 

■ 予測残差補正による太陽光発電量予測および階層型BEMS

慶應義塾大学・山内 賢,滑川 徹

本論文では,太陽光発電予測と複数のビルを対象としたエネルギーマネージメントシステム(BEMS)について扱う.まず,太陽光発電予測について考える.まずk平均法,SVRによって太陽光発電量を予測するが,予測値と実測値には予測誤差が存在する.この問題を解決するために,マルコフ過程に基づいて事前に予測誤差を推定し,推定予測誤差を用いて予測値を修正する.そして,算出された点予測値にコピュラを適用することで,区間予測値を算出する.つぎに,2階層型のBEMSについて考える.1階層目では,各ビルにおいて,快適性を考慮しつつ電力消費量を決定する.2階層目では,すべてのビルにおける総コストを削減するために,シナリオロバスト理論を適用することで,ロバスト性を考慮したバッテリースケジューリングを行う.そして各節の最後で,シミュレーションによって,提案予測手法の有効性,エネルギーマネージメント手法の有効性について確認する.


 

■ A0モードラム波動場の点波源拘束偏微分方程式にもとづく欠損のシルエット像再構成

佐賀大学・石橋 春香,寺本 顕武

 本論文は,極座標系で表現された波動方程式を因数分解することによって導出される点波源拘束偏微分方程式を利用した非破壊検査手法を提案している.A0モードラム波が形成する2次元の波動場を円筒座標系で表現し,この波動方程式を1次の微分方程式の積に因数分解する,それぞれの項は,波源から同心円状に発散する波面と波源に集束する波面を表している.さらに,この微分方程式をベクトルを用いて書き直して得られたベクトル微分方程式が,点波源拘束微分方程式である.このベクトル微分方程式は,波動場を表すスカラーポテンシャルの勾配がポテンシャル自身とその時間微分の線形結合で表されることを示している.ポテンシャルの係数が波動場の位相速度ベクトル場の発散で与えられるため,ポテンシャルの勾配とポテンシャル自身の相互相関演算により位相速度ベクトル場の発散を取り出すことができる.導出された発散は,点波源近傍で大きな値をとるので,その結果,点波源の位置特定することができる.さらに,実験を通して,提案手法が,炭素鋼板材中の微小欠損および,直交異方性を示す炭素繊維強化プラスチックの積層板材中の微小欠損実のシルエットを再構成する能力を評価している.


 

■ 仮想時間応答に基づく制御ゲインの評価と再設計の反復

 奈良先端科学技術大学院大学・小坂 麻人,
青山学院大学・小坂 彩人,近畿大学・池田 篤俊,小坂 学

FRITは,1回の実験データのみに基づいて,閉ループ系が参照モデルに近づくように制御ゲインを最適化できるが,参照モデルが適切でない場合には,制御性能が悪化するばかりか,制御系が不安定になる恐れすらあるという問題がある.そこで,閉ループ系の参照モデルに近づくように最適化する代わりに,整定時間やオーバーシュートが小さくなるように最適化すれば,この問題を解決できると考えた.整定時間やオーバーシュートを測定するために,制御器を実装した際の時間応答が必要である.その予測手法として金子らが提案した,一組の実験データを直接用いた閉ループ系の応答予測の新しいアプローチがあるが,閉ループ系の伝達関数モデルの構造が既知でなければならないという課題がある.そこで本論文では,金子らの方法を周波数応答をベースとした方法でとらえることで,この課題を解決する.さらに,予測した仮想時間応答からオーバーシュートと整定時間を測定し,FRITの考え方に基づいて,それらの評価と制御ゲインの再設計を反復する手法Virtual Time-response based Iterative Gain Evaluation and Redesign (V-Tiger)を提案する.


 

拡大系に対する周期的事象駆動制御系の設計

明治大学・市原 裕之,キヤノン・山本 将史,電気通信大学・澤田 賢治

本論文では線形離散時間系で表される拡大系に対して,出力誤差に基づいた周期的事象駆動制御系の漸近安定性を保証する静的出力フィードバック制御則の設計について考える.拡大系はもとの制御対象とフィルタから構成される.このとき,提案する静的出力フィードバック制御則は,トリガされた制御対象の出力信号から拡大系への補助入力信号を生成する.与えられた事象駆動条件に対して,提案法ではフィルタと制御則を同時に求める凸な設計条件を明らかにする.数値例によって,提案した事象駆動制御系の有効性を検証する.


 

■ 周期的な参照信号に対する非線形最適追従制御-安定多様体法と射撃法によるアプローチ-

 南山大学・中村 拓登,大石 泰章,坂本 登

非線形のサーボ系の最適設計のため,安定多様体法と射撃法を使ったアプローチを提案する.特に,非線形最適制御のための有望な方法である安定多様体法に関して,その試行錯誤的な部分を,射撃法を使って系統的に実行することを考える.基本的なアイデアは,Sakamoto-Rehakのアプローチを,周期的な参照信号の非線形最適追従の場合に適用することである.ただし,問題を周期的な偏差系のレギュレーションに解釈し直すことで,射撃法を適用できるようにする.適用例として,宇宙機の追従制御を考え,線形最適制御との比較を行う.


 

■ 電力市場における反復入札による入札価格と電力配分の最適化

慶應義塾大学・加藤 佑介,滑川 徹

本論文では,複数の地域において複数の需要家および供給家が存在する電力市場を想定し,需要家および供給家が単位電力量当たりの電力価格を入札しISOが電力配分と地域間の電力潮流量を決定する前日市場の問題を扱う.ISOが需要家からの支払と供給家への支払との差を最大化することで社会全体の利益が最大化されることを示す.そして,双対分解を用いて最適電力配分決定問題を解くアルゴリズムを提案する.最後に,シミュレーション検証により提案手法の有効性を確認する.