Vol.56,No.6
論文集抄録
〈Vol.56 No.6(2020年6月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 流量制御機器の外乱モデルとIMCによるセンサレス圧力外乱抑制
- ■ 2自由度型アドミタンス制御による力覚提示を用いたノミ切削感覚の表現
- ■ ひび割れ自動補修システムのための撮影環境にロバストなひび形状検出
- ■ 誤差逆伝搬法による電力系統安定化装置のパラメータ設計
[論 文]
■ 流量制御機器の外乱モデルとIMCによるセンサレス圧力外乱抑制
堀場エステック・瀧尻 興太郎,
堀場製作所・境 行男,京都大学・杉江 俊治
熱流量センサーを使用したマスフローコントローラーは,半導体業界でプロセスガスの流量制御するために広く使用されています. 近年,ガス流の安定性と再現性は,高集積半導体デバイスの性能と歩留まりに影響を与えるため厳しく管理されています.特に,MFCの上流側の圧力変動は,流量の安定性において大きな影響を与えるため,圧力センサーを用い圧力変動に反応しないMFCが開発されております. 本論文では,圧力センサを使用しないロバストな制御方法を提案します. MFCの内部モデル制御(IMC)を適用した数学モデルを構築し,外乱の線形化モデルにより外乱を相殺できるコントローラーゲインを設計いたしました.この論文では提案法について実験検証を行い有効性を示します.
■ 2自由度型アドミタンス制御による力覚提示を用いたノミ切削感覚の表現
山梨大学・益山 健太郎,野田 善之,
伊藤 安海,鍵山 善之,上木 耕一郎
近年,多様な環境を創出できるVirtual Realilty技術を用いた手術訓練シミュレータが開発されている.その多くは軟組織を対象とし,微細な手術操作に素早く反応できるよう,高い応答性を有する力覚提示技術を必要とする.一方,硬組織に対して骨ノミを用いた切削術では,打撃操作による大きな操作力が加えられ,打撃力に耐える高い剛性とともに,衝撃へ瞬時に反応する高い応答性が求められる.本研究は,骨ノミを用いた切削術の実現を目的に,打撃力に耐え得る剛性を持ち,大きな反力提示が可能な力覚提示機器を開発する.また,高剛性化に伴う可動部の質量増加による応答性の低下を改善し,衝撃へ素早く反応できるよう,2自由度型アドミタンス制御による力覚提示システムを提案する.提案手法における仮想モデルには,支持点が変動するバネ・マス・ダンパ系を実装することで切削動作を表現する.提案手法の有効性を被験者によるシミュレータ操作実験により検証した結果,従来手法と比較して切削感覚の再現性の向上が確認された.
■ひび割れ自動補修システムのための撮影環境にロバストなひび形状検出
熊本大学・佐田 実季,田邉 将之,
川脇 治,中村 優花,岡島 寛
日本における舗装路面は道路長ベースで約100万kmもの膨大なストック量を有しており,メンテナンスサイクルの構築や効率的な維持管理が望まれる.今後の社会インフラ老朽化問題の解決のためには舗装の補修工事における自動化の研究開発が必要不可欠である.本論文では,ひび割れ自動補修システム構築において中核をなすと考えられる技術として,アスファルト舗装におけるひび形状のロバストな検出についての検討を行う.アスファルト舗装は,砂利をアスファルトにより結合することで舗装を行うものであり,地域によって利用する砂利の色が違うことからアスファルト舗装の色合いが異なってくる.道路補修を行う時刻は様々であり,同じ道路であったとしても撮影時刻や天候,影の影響により画像中の舗装の色合いが大きく異なることから,ひび割れ補修に必要なひび形状の検出は簡単でない.本論文では,ディープラーニングの一種であるU-Netを用いたセマンティックセグメンテーションを利用することで,照明変化を含んだ路面画像からひび領域の検出を行う.撮影日や撮影場所を意図的に変えて,影や色合いの異なるアスファルト舗装を含んだ様々なバリエーションの画像を撮影し,学習データセットに用いた.この結果,環境にロバストでかつ精度の高いひび検出を実現できた.
東海大学・石丸 将愛
近年,ディープラーニングに代表される人工知能の適用事例が,多数報告されている.その応用分野は,画像処理や文字認識など,医療や工学分野からゲームの世界にまで広がっている.誤差逆伝搬法は,ディープラーニングの基本技術であり,最適化の一手法でもある.本論文では,人工知能の制御工学分野への適用を試みている.
電力系統の過渡安定度向上対策には,発電機の励磁制御を行う自動電圧調整器(Automatic Voltage Regurator:AVR)と,それに制御信号を付加する電力系統安定化装置(Power System Stabilizer:PSS)が効果的とされている.PSSは,位相の進み/遅れ補償ブロックの時定数を調整することで,制御系が設計される.これらの時定数は,設計技術者による周波数応答を確認しながらの試行錯誤により,決定されることが多い.
本研究では,ディープラーニングの基本である誤差逆伝搬法を用いて,電力系統安定化装置(PSS)のパラメータ設計を行った.提案手法により,試行錯誤することなく,グラフィカルな指標による制御系設計が可能となった.