論文集抄録
〈Vol.56 No.8(2020年8月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論 文]

■ 浮体式洋上ウィンドファームにおける総発電量の調整を考慮した分散ブレードピッチ角制御

大阪大学・橋本 航,林 直樹,
大阪府立大学・原 尚之,大阪大学・高井 重昌

本論文では,複数の浮体式洋上風力タービンで構成されるウィンドファームのブレードピッチ角制御のための分散制御法を検討する.対象とするウィンドファームは,空力弾性シミュレータFASTを用い,離散時間線形システムとしてモデル化される.各風力タービンの発電機速度の変動と風車の動揺を抑えつつ,トランスミッションシステムオペレータによって決定される総発電量の協調的な調整を行うために,二次計画問題を分散的に解くことで各風力タービンの制御入力を決定する手法を提案する.また,FASTによる非線形シミュレーションにより,提案手法の有効性を検討する.


 

■ 光学マウスセンサの測位キャリブレーションによるフリーハンド型RCイメージングレーダ

群馬大学・三輪 空司,小関 寿樹弥

近年,鉄筋コンクリート(RC)構造物のリニューアル工事における事前のレーダ探査において電力線等の埋設細径配線を見逃すことで,破断事故につながることが報告されている。多くは走査線に沿ったスキャンを行う際に細径配線と偏波が直交することで反射強度が低下することが原因であり,回転操作も含め任意方向に自在に走査可能な円偏波アンテナを用いたフリーハンド型イメージングレーダシステムを開発し,その有効性を検討した。フリーハンド走査のためのアンテナ測位には光学マウスセンサを二個用い,その設置誤差による推定精度劣化を改善するための誤差キャリブレーション法を提案し,実験的に有効性を検証した。その結果コンクリート表面において100回の往復走査時の絶対位置誤差はセンサ1,2とも9 mm以下であり,十分な推定精度が得られた.また,円偏波アンテナを用いたレーダシステムと統合し,フリーハンドによる細径配線のイメージングを行った結果,深さ150 mmの細径配線を良好に映像化可能であり,直線走査に比べ,適当なアンテナの回転も含めた円状走査でのコントラストが12~14%向上することがわかった.


 

■スミス補償器に対するVirtual Internal Model Tuning

電気通信大学・樋口 奎,池崎 太一,金子 修

スミス補償器は,むだ時間を持つシステムの効果的な制御手法として広く知られている.スミス補償器の設計において,むだ時間をもつシステムの数式モデルが完全に既知な場合に,数式モデルを使用した適切なフィードバック制御器を用いることで,所望の応答への追従を完全に達成できることはよく知られる事実である.この論文では,数式モデルが未知であり,同定のための理想的な実験を行うことが困難な場合に対処する.このような場合,データを直接的に用いる手法は,合理的なアプローチの一つである.この論文では,むだ時間をもつシステムに対するデータ駆動型制御器更新の新しい手法を提案する.ここでは,出力データを使用したデータ駆動型制御器更新手法である Virtual Internal Model Tuning (VIMT) がこのクラスの制御器にどのように拡張されるのかを説明する.また,提案手法で使用される評価関数の意味について考察する. 最後に,提案手法の有効性と有用性を,数値例と実機実験により検証する.


[ショート・ペーパー]

■ 確率的スケーリング要素によるスケーリング効果の検証

京都大学・柳楽 勇士,細江 陽平,萩原 朋道

確定系の議論においてDスケーリングは,スモールゲイン定理に基づくロバスト安定解析の保守性を低減する一手法として知られている.本論文では離散時間確率系,より正確には,その動特性が(しばしば白色雑音として扱われる)i.i.d.確率過程により定まるような系を扱う.先行研究ではそのような系に対するスモールゲイン定理が論じられている.本論文では,上記確率系のスモールゲイン定理に基づくロバスト安定解析で活用することを念頭に,確率的なスケーリング要素を用いたDスケーリング手法を提案する.この手法の特徴は,考察対象とする系のランダム性を表現するi.i.d. 確率過程に応じて,確率的に時変な静的スケーリング要素を構成することにある.通常の確定系の議論においては,一入出力の線形時不変系に対して静的時不変なスケーリング要素を用いてもスケーリング効果が得られないことは自明である.一方,系が確率的である場合には,スケーリング要素が静的であっても確率的スケーリングは一入出力線形系に対して効果を発揮しうる.確率的Dスケーリングの効果を端的に表すこの事実を,数値例を通して紹介する.