Vol.57,No.10
論文集抄録
〈Vol.57 No.10(2021年10月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 障害物の運動特性を考慮したポテンシャル場に基づく自律走行パーソナルモビリティの運動制御
- ■ 既存6輪ダンプトラックの自律走行のためのレトロフィット型ハンドル駆動用エアモータの速度制御
- ■ 多自由度機械系に対するDescriptor Terminalスライディングモード制御
- ■ ハウス内の土耕環境におけるレコメンド型温湿度制御
[論 文]
■ 障害物の運動特性を考慮したポテンシャル場に基づく自律走行パーソナルモビリティの運動制御
筑波大学・平澤 敦基,合原 一究,河辺 徹
近年,徒歩や自動車に代わる新たな交通手段として,小型で低速な電気自動車であるパーソナルモビリティ(PM: Personal Mobility)が注目されている.障がい者や高齢者の支援を目的としたPMの自律走行技術の研究開発も進んでいる.さらに,小型かつ低速で小回りが利くことから,歩車共存の道路空間であるシェアドスペースでの効果的な活用が期待できる.しかし,PMをシェアドスペース上で走行させる場合,歩行者や自動車,路面電車など,形状や運動が様々に異なる障害物を,搭乗者の乗り心地を考慮したうえで安全に回避できる運動制御法が必要になる.先に提案した手法では,様々な障害物に対し,その移動の予測に基づいて滑らかに回避が可能であるが,一方で予測が大きく外れた障害物を安全に回避することが難しいという欠点があった.そこで本論文では,障害物の運動特性を考慮した新たな運動制御法を提案する.提案手法では,障害物による方向変化や速度変化の大きさや頻度などの運動特性を反映したポテンシャル場を新たに定義し,これに基づいてPMの運動を制御する.提案手法は,従来の経路計画法であるポテンシャル法の拡張にあたる.数値シミュレーションにより提案手法の有効性を検証する.
■ 既存6輪ダンプトラックの自律走行のためのレトロフィット型ハンドル駆動用エアモータの速度制御
東北大学,コーワテック・小松 智広,
東京大学・永谷 圭司,東北大学・平田泰久,鈴木 高宏,大野 和則
近年,土木建設業における労働力不足がより深刻な問題になっており,生産性向上のため,建設機械の自動化への需要が高まっている.本研究グループでは,中小事業者への自動化建機導入をより容易にするため,既存の建機に対して,自動操縦ロボットをレトロフィット(後付け)することで,建機のロボット化やそれらの自動化方法の提案を行ってきた.本稿では,既存6輪ダンプトラックの自動操舵におけるエアモータの応答性改善を行う.エアモータは過負荷や防水性に対して堅牢なため,6輪ダンプトラックの操舵に適している.しかし,エアモータは位相遅れやむだ時間の特性を有しているため,車両の経路追従性能を劣化させる.そこで,本提案では,制御対象のモデル化,モデルパラメータの同定試験,制御対象の逆モデルを用いたフィードフォワードコントローラの設計,シミュレーションによる応答性評価を実施し,遅延時間が約70%削減されることを確認した.さらに,エアモータへの本提案手法の適用条件を明確にすることで,車速に応じたダンプトラックの経路計画の設計ガイドラインを示す.
■ 多自由度機械系に対するDescriptor Terminalスライディングモード制御
東京都立大学・花房 健多,武居 直行,児島 晃
スライディングモード制御(SMC)は高い追従性能を達成し,さらに,マッチング条件を満たすパラメータ変動や未知外乱を克服する非線形なロバスト制御法である.そして,ロボットマニピュレータに代表される機械系の制御問題に対して,SMCの有用性がこれまで多数報告されてきた.しかしながら,実装上の観点からは制御入力の高ゲイン化によりチャタリングが発生しやすいことが知られており,不要な高ゲイン化を抑えるためには,対象の動特性の変化を考慮したゲインの系統的な設計法を導入する必要がある.
本論文では,多入出力機械系のfixed-time追従制御問題に対して,descriptor terminal スライディングモード制御を提案する.そして,慣性行列を用いた状態依存の切換面を導入することにより,fixed-time安定性を保証する到達モードとスライディングモードが設計できることを明らかにする.これらの手法は,切換変数と追従偏差が整定する時間の上界値を定めるものであり,また通常のSMCと同様にオーバーシュートフリーな応答が達成できる.最後に2リンク系,3リンク系のシミュレーションと実験により,提案法の特徴と有用性を明らかにする.
慶應義塾大学・菅井 麻友,原 啓太,井上 正樹,
東京理科大学・中村 文一,慶應義塾大学・吉澤 巧,松本 佳宣
本論文では,低コストで構築・運用できる新しい農業環境制御システムを提案する.低コスト化の鍵となるのは,農業従事者が制御システムへ参加し制御装置と連携して Human-in-the-Loop システムを構築することである.本論文では特に農業用ハウス内の温度や湿度など環境状態の制御問題を考える.Human-in-the-Loop システムの一部である自動制御器により,24時間先までのハウス内の温度と湿度を予測し,予測に基づいた制御操作の候補を農業従事者に提示する.この予測に基づいた制御操作の候補は複数の選択肢を含んでいる.農業従事者は提示された候補と自身の経験や勘をもとに制御操作を決定し,その日の農作業に取り入れる.提案された予測手法と制御システムは,それぞれ簡易ハウスでの実験とシミュレーションで検証をおこなう.