論文集抄録
〈Vol.57 No.5(2021年5月)〉

タイトル一覧

[論 文]


[論 文]

■ 二自由度制御系を備えた小型加熱器へのERIT適用結果

日立製作所・中川 慎二

データ駆動制御の一つであるEstimated Response Iterative Tuningの性能を試作した小型加熱器に適用して評価した.制御器は,フィードフォワード制御とフィードバック制御からなる2自由度制御系とし,小型加熱器の内部温度を制御した.フィードフォワード制御のパラメーターを,Estimated Response Iterative Tuningでチューニングした.内部温度プロフィールと,参照モデルによって計算される所望の内部温度プロフィールとの間の誤差を,応答性の異なる複数の参照モデルで評価した.パラメータチューニング後において,誤差は,チューニング前より小さい結果を得た.また,Estimated Response Iterative Tuningで得られる制御対象の予測出力と予測入力の推定精度は,実用上の観点で高い結果を得た.


 

■ 異機種マルチエージェントの最適配置問題における最遠点到達時間の推定法

横浜国立大学・市原 紀生,上野 誠也

近年の無人機の研究開発の進展は著しいものがあり,一般社会への浸透も急速に進んでいる.そのような中,無人機の活動領域をさらに拡大する技術の一つ に,複数の機体を協調して制御し特定の任務を遂行させる群制御があり,世界中で様々な研究が進められている.一般的に,無人機群の研究は,群の種類という観点から同機種無人機群および異機種無人機群の二つに大別される.同機種無人機群の研究は,実機による実験から理論構築まで多くの事例が存在する一方,異機種無人機群は,群を構成する要素の複雑性や多様性から,モデルの定式化や一般  化という観点の研究は少ない.
本研究は,無人機の代表的な任務の一つである監視を想定し,異機種無人機群を特定の領域に展開させる際,性能差に関わらず任務達成時間が一定となる最適配置を検討した.また,任務達成時間の最大値を推定する手法を提案した.これらは,既存の数学や幾何学の適用することで,比較的簡易な  理論構築を実現している.特に災害現場等の時間や計算機リソースに余裕が無い状況におい  て,迅速なトレードオフスタディへの応用が期待できる.


 

■ ピエゾ接合センサを用いた柱脚の溶接部における変位測定比較

秋田県立大学・下井 信浩,Carlos CUADRA,山口大学・中正 和久

日本の社会インフラ資産は,高度経済成長の時代に集中的に健造されている.しかし ,その将来は機能の悪化が予想されている.
 今後20年間で,50年以上前に建設された 構造物の悪化が益々日常的になると思われる.したがって,このような老朽化したインフラ構造物を維持および管理するための緊急の技術が必要となる. 残念ながら多くの鋼 構造物は,隅肉溶接構造や溶接ベースのフレーム溶接継手を使用して構築されている .さらに,これらの溶接継手は,大地震災害時にエネルギーを吸収する能力がほとんど存在しない.したがって,溶接継手を組み込んだ鋼構造物を設計するには,鋼製溶接ベースの継手に強い耐震特性を特別に設計する必要があると考える.さらに,構造モニ タ リングも必要になると思われる.本論文では,すみ肉溶接構造の強度と変位特性を 評 価するためのピエゾジョイントセンサを開発し,簡易測定とシミュレーションを用いて解析した結果について述べる.


 

■ 回転型柔軟アームにおける先端加速度の位相補償による振動制御

岡山大学・出射 治,今井 純,高橋 明子,竹本 真紹

ロボットアームや柔軟構造物にて生じる有害な振動をセンサで捉えフィードバック制御で抑制する方式としては,アクチュエータと同置されたセンサによるコロケーション制御が標準的である.しかし負荷側の慣性が小さく駆動側のセンサで振動を検出しにくい場合は,ノンコロケートなセンサによる制御系の設計も必要になる.しかしそうした制御対象は非最小位相系となって高い公称性能と十分なロバスト性との間のトレードオフの設計が難しいことはよく知られている.本論文は回転型柔軟アームにおいて先端加速度を用いたノンコロケートな振動制御系の一設計法について述べる.まず公称モデルとしてアームの剛体モデルを採用し,内部モデル制御による位置追従系を構成する.そして帯域通過フィルタを用いたモード別のむだ時間による位相補償器を加速度出力について設け,共振周波数において一巡伝達関数が正の実軸付近になるようなむだ時間の設計を提案する.これによりナイキスト軌跡が臨界点より遠ざかって外乱抑制性能が高まるとともに,共振周波数の不確かさに対する性能劣化が生じにくくなる.先端加速度を利用することで外乱や共振周波数の不確かさに対してロバストな振動抑制が実現できることをシミュレーションならびに実験により示す.