Vol.58,No.10
論文集抄録
〈Vol.58 No.10(2022年10月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ オンライン調整を伴う2自由度構成による隊列走行車両の縦方向制御
- ■ 入力周期の長いマルチレート系に対するマルチレート状態フィードバックゲインの外乱抑制のための設計
- ■ 局所絶対座標系における車両型移動ロボットに対するステアリングアシスト制御
- ■ 制御Lyapunov関数を用いた二輪車両型移動ロボットの軌道追従制御
- ■ 一般化主双対ダイナミクスと制御バリア関数に基づく実時間照明最適化
[ショート・ペーパー]
[論 文]
■ オンライン調整を伴う2自由度構成による隊列走行車両の縦方向制御
奈良先端科学技術大学院大学・中尾 安宏, 小林 泰介, 杉本 謙二
移動体の隊列走行はドライバー不足への対策や,交通渋滞を解消して排ガス削減 につながるものとして期待される.この技術では不確かさや外乱へのロバスト性 とともに,先頭車両の速度変化への良好な応答特性が極めて重要である.そこで 本論文ではフィードバック誤差学習にもとづく適応2自由度制御の手法を提案す る.この手法では,制御対象の不確かさはその入出力信号を用いてフィードフォ ワード制御をオンライン調整することで対処される.ロバストフィードバック制 御によっても系の不確かさや外乱に対処する.数値シミュレーションおよび実機 実験によって提案法の有効性を検証する.
■ 入力周期の長いマルチレート系に対するマルチレート状態フィードバックゲインの外乱抑制のための設計
熊本大学・岡島 寛
センシング周期と制御周期が異なるマルチレート方式による制御は有用であり,特に近年,IoTデバイスなどのように様々なセンサやアクチュエータを複合したシステム構成が行われていく流れから,マルチレート方式による制御はより重要なものになると予想される.本研究では,制御入力の印加周期がセンサによる観測の周期に比べて長いシステムに対する制御系設計の手法を提案する.マルチレートシステムを周期性を特徴付けるための時変行列を定義し,マルチレートシステムを周期時変システムとして捉える方法を与える.さらに,得られた周期時変システムを時不変システムとして扱うサイクリング手法を利用することで,時不変系で扱われるl2誘導ノルム評価に基づいた解析が可能になる.さらに,サイクリングによる時不変化は設計問題への相性も良いことから,先の解析手法を利用したLMIによる設計も提案している.マルチレート系の設計による効果は,複数の数値シミュレーションによって検証している.
■ 局所絶対座標系における車両型移動ロボットに対するステアリングアシスト制御
東京理科大学・飯橋 亮太郎, 濱谷 亮太, 中村 文一
近年,2輪車両や4輪車両などの非線形制御系に対して,制御バリア関数(CBF)を用いたヒューマンアシスト制御が盛んに研究されている.しかし,その有効性は直進操作に対する実験においてのみ実証されており,ステアリング操作に対する実験では実証されていない.また,従来の方法では,緩やかなステアリングアシスト制御則の設計が容易でない.そこで本研究では,高井らが提案したシステム蘇生変換を用いて制御バリア関数を設計し,車両型移動ロボットのための滑らかなアシスト特性を持つステアリングアシスト制御則を設計する. 次に,障害物や車両型移動ロボットの位置を計測するために,局所絶対座標系を導入する.そして,局所絶対座標系で得られたデータに基づいたステアリングアシスト制御則を提案する.本論文では,車両型移動ロボットを用いた実験により提案法の有効性を示す.最後に相対座標系で得られたデータに基づいたステアリングアシスト制御則との比較を行い,提案法の有効性を示す.
■ 制御Lyapunov関数を用いた二輪車両型移動ロボットの軌道追従制御
東京理科大学・木田 裕也, 久保 燎矢, 中村 文一
非線形システムである二輪車両型移動ロボットに対する局所的な軌道追従制御方法として,最小射影法を用いた追従制御Lyapunov関数(TCLF)の設計法を提案する.まず,状態と参照状態の誤差を用いて非線形誤差システムを設計し,動的拡大により線形化する.次に,線形誤差システムに対する仮想状態を持つ制御Lyapunov関数(CLF)を設計する.最後に,最小射影法により,元の非線形システムに対する仮想状態のないTCLFを設計する.また,得られたTCLFの有効性を実機実験によって検証する.
■ 一般化主双対ダイナミクスと制御バリア関数に基づく実時間照明最適化
東京工業大学・山下 駿野, ボッシュ・土屋 将大, 東京工業大学・畑中 健志
本論文では,ビルの実時間照明最適化問題を考察し,一般化主双対ダイナミクスと制御バリア関数に基づく照明最適化アルゴリズムを提案する.まず,時間的に変化する人間の位置に依存する照明最適化問題を線形計画問題として定式化する.また,線形計画問題の解法として,一般化主双対ダイナミクスを紹介する.つぎに,過渡応答において下限照度制約を充足させるために,制御バリア関数に基づく制御器を一般化主双対ダイナミクスに適用した新たな最適化アルゴリズムを提案する.さらに,UC-win/RoadとMATLAB/Simulinkの2つのソフトウェアを組み合わせて,現実のビルのフロアを再現した実時間照明制御シミュレータを構築する.最後に,構築したシミュレータを用いて,提案した実時間照明最適化アルゴリズムの有効性を検証する.
[ショート・ペーパー]
■ 制御入力制限を考慮したVirtual internal model tuning によるデータ駆動型制御器調整
電気通信大学・鈴木 元哉
一組の実験データに基づく制御器更新法として,データ駆動制御が提案されている. 最新の事例として, Virtualinternal model tuning(VIMT) が提案されている. VIMTでは初期出力と初期制御器に基づき, 所望の閉ループ応答を実現できる. Virtual reference feedback tuningと比較すると,ノンプロパーな伝達関数計算が不要という利点がある.Fictious reference feedback tuning と比較すると, 評価関数が制御器パラメータに対して線形関数になりやすいという特徴がある.特に,PID 制御器調整ではPID ゲインを最小二乗法にて求解できる.一方,VIMT は初期制御入力が制限されていないという仮定のもと,フィードバック補償器を更新する.通常の制御系設計では過大な制御入力を制限するため,フィードバックループ内に飽和関数が実装されている.初期閉ループ実験にて初期制御入力が飽和関数によって制限されている場合,制御器更新の精度が劣化してしまう.
本稿では入力飽和した初期実験時データに対応可能なVIMTを提案する. 提案手法では,初期制御入力が制限されていない場合における初期出力を推定する.推定した出力に基づいて評価関数を最小化することにより,初期制御入力が制限されているケースにおいて所望の制御器更新を実現できる.