論文集抄録
〈Vol.58 No.3(2022年3月)〉

タイトル一覧
[第8回制御部門マルチシンポジウム論文特集号]

[論 文]


[論  文]

■ 同調バイアスを有する集団避難行動のモデル化と受動性に基づくナッジ設計

東京工業大学・山下 駿野,入舟 広大,畑中 健志,
早稲田大学・和佐 泰明,富山大学・平田 研二,早稲田大学・内田 健康

 本論文では,避難開始選択問題における意思決定モデルについて考察する.まず,同調バイアスを有する個人の避難選択モデルを導入し,これを集団による避難選択モデルへ拡張する.つぎに,意思決定の静特性に焦点を当て,避難選択問題における同調バイアスモデルと,従来研究で提唱された一般の集団意思決定における同調バイアスモデルを比較する.この際,両バイアスモデルの共通点と相違点を明らかにする.さらに,同調バイアスが動的な避難選択に及ぼす影響を,システムの受動性の観点から解析する.最後に,避難選択を誘導するナッジメカニズムを受動性に基づき設計する.


 

■ 障害物の形状を考慮したロボットアームの衝突回避制御

東京理科大学・濱谷 亮太,山本 大心,中村 文一

 近年, 制御対象の安全性を保障するために制御バリア関数(CBF)を用いた制御法が注目されている.先行研究では, さまざまな形状の障害物やロボットに対してCBFを用いた制御法の有効性が示されている.しかしながら, 制御対象の形状と障害物の形状を同時に考慮するCBFを用いた制御法は研究されてない.
  そこで本論文では, 制御対象を平面n関節シリアルリンクロボットとし, その形状を考慮した制御則の導出を行うとともに, 制御対象の安全集合が非凸な場合におけるCBFを設計する.つぎに, CBFを用いて人間による操作入力に対する障害物との衝突回避を実現するアシスト入力の設計を行う.最後に, 実機実験により提案法の有効性を明らかにする.


 

インパルス応答表現を用いたERITの実機検証

 北九州市立大学・阿蘇 大志,藤本 悠介

 本論文では,データから直接制御器を設計するデータ駆動制御に関する議論を行う.特に,2自由度制御系のフィードフォワード制御器をデータから更新するEstimated Response Iterative Tuning (ERIT)に着目する.本論文は,ERITで更新されるフィードフォワード制御器の構造としてインパルス応答を用いる.これにより制御器の自由度が確保され,複雑なシステムにも対応可能となる.一方,パラメータ数が増えるために過適合が生じやすくなることから,これを避けるためにカーネル正則化を用いたパラメータ調整法を提案する.さらに,数値シミュレーションと実機実験により提案法の有効性を示す.


 

■ 複数レトロフィットコントローラの逐次分散開発:同定・設計・運用の独立性

東京工業大学・伊藤 将寛, 川口 貴弘, 石崎 孝幸

 本論文では,複数の管理者がレトロフィットコントローラを逐次分散開発することについて述べる.レトロフィット制御は安定なネットワークシステムに適用可能なモジュラ設計手法であり,それぞれのサブシステムは局所コントローラによって制御される.それぞれの管理者の立場からすると,他の管理者が管理するサブシステムすべてを未知の環境とみなし,環境の近似モデルは局所コントローラの設計に利用可能であるとする.本論文では,環境の近似モデルの同定のために,管理者から見たときのすべての環境がレトロフィットコントローラのすべての設計パラメータに対して不変であることを示す.さらに,環境の近似モデルの精度を向上させることで,あるサブシステムに対する外乱入力からそのサブシステムの評価出力に対する局所的な制御性能が向上される一方で,他のサブシステムの評価出力に対する大域的な制御性能の向上が一般的には保証されないことを示した.この理論的な結果の重要性を電力系統の制御を例に検証した.


 

■ Regularized and Smoothed Fischer-Burmeister法を用いた連続変形法に基づくモデル予測制御

豊田中央研究所・池田 太郎,森安 竜大,豊田自動織機・川口 翔

 連続変形法に基づくモデル予測制御にRegularized and Smoothed Fischer-Burmeister法を導入し,凸問題として定義された最適制御問題の正則性を確保するための平滑化および正則化を行った.加えて,解くべき方程式を分割し,反復計算が必要となる問題のサイズを小さくすることで,高速な計算に適する形態とした.さらに,平滑化パラメタおよび正則化パラメタと,連続変形法にて解くべき一次方程式の条件数との関係を定量的に評価し,所望の条件数を担保するパラメタ設計指針を示した.また,複雑な多入出力系として,エンジンのエアパス系を題材とした数値例を示し,手法の妥当性を実証した.


 

■ モデル予測制御による宇宙飛翔体の姿勢制御系設計

総合研究大学院大学・坂岡 恵美

 モデル予測制御をロケットの姿勢制御問題に適用し,ダイナミクスの不確定性と時変性という2つの大きな問題に対処する.本研究ではロケットの第一段での姿勢制御に焦点を当てる.この領域では環境条件が時間変化し,局所的な風や大気の状態に不確定性が存在する.また,ロケットの質量や剛性などのパラメータも時間変化し,さらにフライトモデルを直接試験することができないため不確定性が存在する.従来手法では,不確定性に対処するためのH∞制御と,時変性に対処するためのゲインスケジューリング法を組み合わせて実システムに適用している.しかし,ゲインスケジューリング法では飛翔時間を複数のブロックに分割して制御器を設計する必要があり,多大な時間と労力を要する.本研究ではこの設計手順を簡略化するため,時変性に直接対応可能なロバスト制御アルゴリズムを設計することを目的とする.この第一段階として本論文では,時変システム用と不確定システム用の2つの制御器を設計する.時変システム用制御器として適応型モデル予測制御(AMPC)を,不確定システム用制御器としてロバストモデル予測制御(RMPC)を適用する.シミュレーションにて,AMPCはダイナミクスの時間変化に対応可能であること,RMPCは不確定性に対してロバスト安定性を持つことが示される.


 

■ VIMTを用いたI-PD制御系に対するリアルタイム制御器更新

電気通信大学・池崎 太一 ,金子 修

 本論文では,産業界で数多く使用されているI-PD制御系について,稼働データを用いてリアルタイムに調整する手法を提案する.ここでは著者らが提案した閉ループ系の出力信号に着目したデータ駆動型制御器調整法のVirtual Internal Model TuningによるI-PD制御系の調整則をリアルタイム調整則へと拡張することを考える.また,導出した調整則について,信号の収束性について理論的保証を与える.最後に提案法の有用性を数値実験を用いて検討を行う.


 

■ スマートモデルベース開発(S-MBD)アプローチに基づく制御系の一設計とその自動車のヨーレート制御への応用

広島大学・藤井 聖也,マツダ・宮腰 穂,
広島大学・脇谷 伸,和田 信敬,
マツダ・足立 智彦,矢野 康英,広島大学・山本 透

 従来のモデルベース型制御は,多入出力システムや複数の機能の組み合わせで構成されるシステムに対して,比較的容易に制御系が設計できるなど多くのメリットを有している一方で,製造ばらつきや経年変化,環境・操業条件の変化によって生じるモデルの不確かさに制御性能が依存するという問題を有していた.この問題を解決するために,本論文では,スマートモデルベース開発(S-MBD)アプローチに基づく制御系の一設計法を提案する.S-MBDに基づく制御系設計では,モデルベース型制御とデータ駆動型制御の効果的な相互作用によって,モデルベース型制御のメリットを保持しながら,モデルの不確かさが存在する場合でも制御性能が維持できる制御系の設計を目的としている.本論文では,性能評価・制御パラメータ自動調整機構を有するデータ駆動型制御器を用いて,不確かさをもつ制御対象の理想プラント化を行い,理想プラント化されたシステムを対象にモデル予測制御に基づいたモデルベース型制御器を設計する.提案手法の適用例の一つとして,提案手法を自動車の車両ヨーレートの目標値追従制御系へ適用し,CarMakerの詳細モデルに対する数値シミュレーションを通して,提案手法の有効性を検証する.


 

■ 強化学習を活用した月着陸軌道制御のレジリエンス向上

宇宙航空研究開発機構・植田 聡史,伊藤 琢博,坂井 真一郎

 宇宙ミッションでは,環境やシステムの特性変動に対応し,柔軟にミッションを遂行する「レジリエンス」が求められる.本論文では,強化学習を活用することで,オフノミナル状態から回復するための補正制御則を自律的に立案し,その結果を月着陸軌道制御のレジリエンス向上策に反映する手法を提案する.提案手法では,制御ループにエージェントを追加配置し,エージェントが出力するアクションとしての補正制御入力を本来の閉ループ制御入力に加算するという強化学習問題を構成する.本研究で提案する手法は,補正制御則の構造を事前の知見がない状態から創造し,ベースとなる並進制御則や外乱オブザーバでは対処が困難な条件に対応することが可能である.実ミッションにおける実装では,提案手法により得られる知見を基に,適用する補正制御則の構造を決定する.本稿では,現実的かつ具体的な月着陸シーケンスを適用し,本研究で提案する手法により生成した補正制御則の特性を評価し,得られた知見が実際の月着陸ミッションに適用可能であることを示す.