論文集抄録
〈Vol.58 No.5(2022年5月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論  文]

■ ナノ材料のためのISO試験規格の開発方法論ー孤立分散セルロースナノフィブリルの事例研究ー

産業技術総合研究所・小野 晃

 孤立分散セルロースナノフィブリルは植物原料を解繊することで得られる極小の繊維材料で,日本で開発された先進的ナノ材料である.その国際試験規格ISO/TS/21346が2021年に国際標準化機構(ISO)から発行された.この規格は2017年に日本がISOに提案し, 国内に組織された規格原案作成チームが国際的な規格開発活動を主導して成立したものである.規格原案作成チームは試験規格の開発方法論(シナリオ)を暗黙知として共有して規格開発を進めたが,この論文ではそれを構造化・体系化して形式知として提示する.シナリオは国際規格を開発する一連の論理プロセスとして表現されている.具体的には,考慮すべき要素課題の選択,それらの段階的統合,一貫性があり調和のとれた試験規格の作成から成る.加えて,発行されたISO/TS 21347規格の概要を述べ,将来への展望を議論する.本規格の発行により孤立分散セルロースナノフィブリルの国際市場の健全な発展とその拡大が期待される.


 

■ 線形時不変パラメータ依存プラントに対する既設計の非構造化制御器からオブザーバ構造型制御器への変換

 

宇宙航空研究開発機構・佐藤 昌之, 九州工業大学・瀬部 昇

 本稿では,線形時不変パラメータ依存(Linear Time-Invariant Parameter-Dependent; LTIPD)システムが制御対象であるとき,厳密にプロパーな非構造化 LTI 制御器が何らかの方法によって得られた場合に,オブザーバベース制御器に類似した構造を有する「オブザーバ構造型(observer-structured)制御器」へ変換する問題に取り組む.その結果,元々得られている制御器の状態空間行列,一つの自由行列,および状態変数変換行列を用いてオブザーバ構造型制御器の状態空間行列をパラメトライズできることを示す.また,実質的な変換自由度が状態変数変換行列のみであることから,その変換行列を適切に選ぶことで状態推定性能を向上させる方法を提案し,その有用性を数値例により示す.さらに,設計対象プラントがLTIシステムである時の既存結果との関係も明らかにする.


 

プロセス制御分野におけるモデルベースロバストI-PD調整実用法

アズビル・小河 守正

 プロセス制御分野の代表的なプロセスを対象にして,プロセス動特性モデル(プロセスモデル)とその不確かさに基づくロバストI-PD調整の実用的な方法を提案する.実プロセスのほとんどを網羅するように,プロセスモデルは4タイプ:1次遅れ・2次遅れ・積分+1次遅れ・2次不安定として,いずれもプロセスむだ時間を含むシステムとする.望ましい目標値応答軌道(規範モデル)を与え,その時定数(規範時定数)が制御性能を調整するパラメータである.そして,目標値応答が規範モデル応答にできるだけ合致する条件から,部分モデルマッチング直接法によりモデルベースPID設定則を得る.
制御対象の範囲(プロセス全域)をノミナルプロセスのモデルとそのパラメータ変動範囲(モデル不確定性)として与える.そして,プロセス全域において安定で制御性能が均質になるように,設計に用いる基準プロセスを定めて適切な調整パラメータのもとで実用I-PDコントローラのロバストPID設定値を設計する.その設計例を詳述したうえで,本方法の適用実例を示す.


 

■ 浄水プロセス制御を目的とした深層学習によるフロック画像からの凝集後濁度予測に関する研究

北海道科学大学・鈴木 昭弘 川上 敬, 中央大学・山村 寛,
Utami Putri Eryanti, 前澤工業・根本 雄一, 北海道科学大学・大江 亮介

 本論文の目的は浄水場における凝集剤の注入量を自律制御するために,原水に対して凝集剤を注入した際の凝集後の処理水の濁度を深層学習を用いて予測することである.一般的には凝集剤を注入した際の凝集後の濁度を予測するために,pHやアルカリ度といった化学的なパラメータから予測を行っている.一方で,我々は化学的なパラメータを用いずに凝集中に形成される「フロック」と呼ばれる懸濁質の塊をカメラで撮影し,それを深層学習を用いて画像的に凝集後濁度を予測する手法を提案する.
深層学習の手法としてVGG-16をファインチューニングし,フロック画像から凝集後の濁度が予測可能なのか実験を行った.
  また,本研究での提案手法と,化学的なパラメータによるいくつかのベースライン手法による予測との比較実験を行い,提案手法を評価した.実験の結果以下の知見を得た.
(1)VGG-16を用いることによりフロック画像から凝集後濁度を予測することが可能である.
(2)凝集開始後200秒経過後から凝集後濁度が予測可能である.
(3)提案手法はベースライン手法よりも良好な精度で予測が可能である.