論文集抄録
〈Vol.58 No.7(2022年7月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[ショート・ぺーパー]


[論 文]

■ 半導体製造プロセスにおける流量分岐制御系の提案と最適設計

堀場エステック/大阪大学・瀧尻 興太郎, 大阪大学・大須賀 公一, 杉江 俊治

半導体デバイスの製造工程において,ガス流量の制御はプロセスの歩留まりやスループット,デバイスの性能を左右する重要な要素となっている.ウェーハ上のプロセスの均一性はプロセスガスの供給条件に大きく依存しており,成膜プロセスやエッチングプロセスでは複数のラインにガスを分配する流量分岐制御によって制御されている.近年,ウェーハ上でのプロセスの均一性をさらに高めることが求められているため,分岐ライン数が増加している.さらにプロセスのスループット向上が求められ,各ラインの流量をできるだけ速く収束させることが求められている.しかし,流量分岐制御において,各ライン間で流量制御が干渉する問題や,制御上の拘束条件を満たさなければならない.
よって制御パラメータを最適化することが難しくなってきており,経験的な制御系パラメータの最適化では調整コストがかかっていた.
本稿では流量分岐制御と圧力制御を組み合わせた各ライン間で流量制御が相互干渉しない新しい流量分岐制御を提案する.


 

■ 興奮性媒体を伝搬するwave segmentsのダイナミクス推定と最適サーボシステムに基づく安定化制御

大阪府立大学・勝俣 久敏, 小西 啓治, 原 尚之

心筋やBZ反応系で自律的に形成される空間パターンは,自己組織化現象の一つであり,「興奮性媒体」と呼ばれる数理モデルを用いて調査されている.しかし,これらのパターンを制御する手法は未だ体系化されてない.筆者らは,これまで,興奮性媒体に形成されるパターンの一つ「wave segments」のダイナミクスを推定し,この推定で得られた伝達関数に基づく2自由度制御システムを構築していた.しかし,(i) 推定した伝達関数の妥当性の検証が不十分,(ii) wave segmentsが消滅しづらい制御ゲインの設定が困難,という2つの問題点があった.本論文では,推定した伝達関数の妥当性を「根軌跡」「ゲイン安定領域」「周波数応答」の視点で検証する.次数を3として推定した伝達関数は,次数を1または2として推定した伝達関数に比べ,周波数領域における推定精度が向上した.また,精度が向上した伝達関数に基づき,最適サーボシステムを設計した.媒体にはwave segmentsの伝搬を阻害する障害物を設置した.この最適サーボシステムでは,高周波の振動が障害物により誘発されるにもかかわらず,wave segmentsは消滅せずに,安定性を保ちつつ伝搬した.


 

■ 産業制御システムのネットワークセキュリティを強化するフラッド型DoS攻撃の軽減技術

日立製作所・岩澤 寛, 遠藤 浩通, 丸山 龍也,  松本 典剛, 山田 勉

産業制御システム(ICS)におけるDX等に向けたネットワーク構成のフラット化はメリットをもたらす一方,サイバー攻撃の糸口を増やす側面もある.サイバーセキュリティにおいては,ICSにおいても,可用性維持の観点からDoS(サービス拒否)攻撃への対策は重要である.解決策として,ICSのエッジにおける通信が一般的に周期的であることに着目した,フラッド型DoS通信軽減技術「SFAT」(Synchronized Filtering based on Arrival Time)を提案する.本技術は,周期的な正規の通信フレームに同期したタイミングのみ通信フレームを通過させることでDoS通信量を軽減するものである.このタイミング同期はハードウェア上に実装された同期検波処理により行われる.このSFATをFPGAを用いたファイアーウォール上に実装して評価した結果,DoS通信量を1/10に軽減できることを確認した.


 

仮想都市の統計情報による合成人口データの評価

青山学院大学・原田 拓弥, 関西大学・村田 忠彦, 早稲田大学・ 高橋 真吾

本論文では,合成人口データの評価手法を提案する.従来の人口合成手法では,実統計表と合成した合成人口データから生成する人工統計表との差を用いて評価していた.実個票と比較できれば,実個票と合成人口データの類似度による評価ができる.
しかし,実個票の利活用は困難である.そこで本論文では,仮想都市における個票データを作成し,その個票データから各合成手法が用いる統計表を生成することで,仮想都市における個票データと合成人口データの類似度により,これまで提案されている合成手法の評価を試みる.
これにより,合成手法が用いる統計表や手法自体が大きく変化した場合においても従来手法との比較も可能となる.


[ショート・ぺーパー]

■ 初期制御入力と初期制御器を用いた制御器・プラントモデルのデータ駆動型更新

いすゞ中央研究所/電気通信大学・鈴木 元哉

実験データに基づく制御器調整法として,Virtual internal model tuning(VIMT) が提案されている. VIMT では初期出力と初期制御器に基づき, 所望の閉ループ応答を実現できる. VIMTの拡張として, モデルと制御器の同時獲得手法が提案されている.制御器更新と同時にモデル獲得できるため,実用上非常に有益な方法である. 一方,従来手法では初期制御系のカットオフ周波数が規範モデルより高いケースだと相対誤差を十分低減できなくなり,制御器とモデルの更新精度が劣化してしまう.
以上の背景のもと, 本稿では初期制御入力と初期制御器情報を用いたモデル・制御器の同時獲得手法を提案する. 提案手法では,初期制御系のカットオフ周波数が規範モデルより高域にあれば所望の制御器・モデルを同時獲得できる.したがって,従来手法の欠点を補完することが可能となる.本稿では提案手法の有効性を実験にて検証した.