論文集抄録
〈Vol.59 No.4(2023年4月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論 文]

■ 三重タンクシステムのイベントトリガロバスト出力フィードバック制御

茨城大学・楊 子江, 佐藤 和輝

本論文は,三重タンクシステムに対するイベントトリガロバスト出力フィードバック制御手法を提案する.まず,制御対象を座標変換に基づいて正準系へ変換した上,有限時間高次スライディングモード微分器を用いて状態を推定することによって,一つの水位センサのみが必要であるロバスト出力フィードバック制御器を構築する.さらに,アクチュエータへのデータ通信負担および頻繁な動作更新によるアクチュエータの摩耗や疲労を低減するために,システム信号の時間変化分がある閾値に達したというイベントが発生した場合のみ制御入力を更新させる event-triggering mechanism (ETM) を導入する.ETM は,各制御ゲインと信号の時間変化分を陽に含ませて設計される.実システムへの応用にあたって,観測雑音や外れ値などによる無駄なイベントが頻繁に起こる可能性がある.この問題については積極的に対処する文献はあまり見当たらない.本論文では,ETM のイベント測定関数をローパスフィルタに通す方法を提案する.ローパスフィルタの時定数による影響も理論的解析を行う.また,イベントトリガ制御系の制御性能および(有限時間内に無限回のイベントが発生する)ゼノ現象が回避できることを理論的に解明する.最後に,提案する制御系が制御入力の更新時間間隔を適宜に調整してしていることを実機実験によって示す.


 

■ V-Tigerに基づく安定判別と周波数領域近似モデルマッチング

近畿大学・小坂 学

FRITとVRFTはデータ駆動制御の代表として,幅広く応用されているが,実際の閉ループ応答を予測できない.最近,実際の閉ループ応答を予測するV-Tigerなどのデータ駆動予測が提案された.V-Tigerは実験データから閉ループ系の仮想周波数応答と仮想時間応答を予測して整定時間やナイキスト軌跡を読み取るが,ノイズが大きくなるとそれらの読み取りが困難になってしまう.そこで,(1) 仮想時間応答に基づく安定判別法,(2) 1つの実験データから複数の仮想時間応答を求めて平均化するノイズ除去法,(3) 周波数領域で評価関数を最小化する制御設計法,を提案してノイズに対するロバスト化を図る.


 

利他的行動の空隙とチームパフォーマンス

筑波大学・二宮 一将, 倉橋 節也

本研究では,社内通貨のログデータを分析することで,分断された組織の状態診断とマネジメントを行う画期的な方法を提案する.企業では,組織の個別最適化,サイロ化,個人の孤立化,組織の分断がしばしば問題となる.本研究では,「感謝」をテーマとした社内通貨の送受信ログデータの分析から人と人との繋がりを定量的に把握し,チームのパフォーマンスとの関係を検証した.分析の結果,構造的空隙を埋める橋渡し人材は,チームのパフォーマンスに重要な影響を与えることがわかった.


[ショート・ペーパー]

■ 適格度トレースを用いたポートハミルトン系のための決定論的方策勾配法の提案と数値実験による検証

 東京都立産業技術高等専門学校・福永 修一, 小久保 燎太

本論文は適格度トレースを用いたポートハミルトン系のための決定論的方策勾配法を提案する.決定論的方策勾配法は方策オン型と方策オフ型の2つのアルゴリズムがある.提案手法では良い解を探すために確率的探索を行う方策オフ型のアルゴリズムを採用する.ポートハミルトン系に対して方策オフ型決定論的方策勾配法を導出する上で,適格度トレースを新たに導入することにより学習の高速化を実現する.倒立振子の制御問題に提案手法を適用し有効性を示す.