論文集抄録
〈Vol.59 No.6(2023年6月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論 文]

■ 可変高度のUAVセンシングにおける森林地表付近の減衰特性を考慮した放射線マッピング

日本大学・大山 勝徳, 鬼川 凌, 源田 浩一

福島第一原発事故後,広域の放射線マッピングは汚染情報把握と避難指示発令に有効であった.地上分解能を持つ放射線マップの即時入手性が重要であり,土地利用の種類によって減衰率が異なることから,有人機だけでなく,小型の無人航空機(UAV: Unmanned Aerial Vehicle)を用いた地表面付近のセンシングが重要となる.UAVを地表付近で連続飛行させる場合,様々な高さから放出され散乱した放射線の影響を考慮する必要がある.地形情報を組み入れて機械学習で空間線量率を予測するUAVセンシングのアプローチも有望であるが,対地高度50m未満の高さの計測結果はほとんど使用されてこなかった.本稿では,地表付近でも適用可能な垂直成分と水平成分を合わせた距離補正の方法を検討し,既存手法の段階的な拡張を試みる.帰還困難区域近辺で実験を行った結果から,既存手法と提案手法を詳しく比較する.本手法の特徴は,放射線量率の推定に使用するパラメータの適用範囲内の条件下で,一定高度のフライトの計測データだけでなく地表付近の計測データも追加することで効果的な推定精度の向上が得られることにある.そのことから,高度を維持することの制約なしにUAVを用いて計測することにより,高い時間効率で高線量の局所領域を特定することに寄与する可能性を考察する.


 

■ 障害物の角速度情報と解像度可変ポテンシャル場を用いた自律走行パーソナルモビリティの運動制御

筑波大学・岩谷 燎, 河辺 徹

近年,従来の自動車よりも小型で低速な電気自動車であるパーソナルモビリティ(PM:Personal Mobility)が注目されている.PMは歩道や,歩車共存空間であるシェアドスペースでの活用が期待されている.また,自力での移動が困難な障がい者や高齢者の移動手段としても期待されており,PMを自動運転させるための研究も行われている.このような状況の中,私たちのグループは,障害物の運動特性を考慮した時空間ポテンシャル場に基づくPMの運動制御法を提案した.しかし,この手法では歩行者のような角速度の大きな障害物を回避するには不十分であり,また,計算に時間がかかるため,実用的な方法とは言えない.
  そこで,本論文ではこれらの点を改善した実用的なPMの運動制御法を新たに提案する.提案手法では,障害物の角速度を考慮した新たなポテンシャル場を定義することで,従来手法では不十分であった障害物に対する回避性能を向上させる.同時に,実用性を高めるため,回避性能をできるだけ維持したまま計算量を削減する方法として,ポテンシャル場の解像度を可変とした削減アルゴリズムを取り入れる.最後に,シェアドスペースを想定した数値シミュレーションにより,提案手法の有効性を検証する.


 

持続的外乱の存在下におけるシステム同定モデルの選定と可同定性条件

慶應義塾大学・青山 千仁, 群馬大学・川口 貴弘,慶應義塾大学・足立 修一

近年,モデルベースト制御が発展していることに伴い,対象システムの入出力データから,対象の数学モデルを構築するシステム同定理論が注目されている.典型的なシステム同定問題では確率外乱の存在を仮定することが多いが,本研究では一定値外乱や正弦波外乱といった持続的外乱が存在する状況を想定する.一定値外乱の存在下におけるシステム同定法として,入出力データからそれぞれの平均値を差し引く前処理を行なう方法などが知られている.また,周期が未知である,正弦波外乱を含む周期外乱の存在下におけるシステム同定法として,高次ARXモデルで同定を行ない,その低次元化によって制御対象のモデルを得る方法が提案されている.得られたモデルの出力と実出力の差を用いて周期外乱の周期を抽出すれば,繰り返し制御で周期外乱を抑制できる.以上のように,一定値外乱と正弦波外乱が存在する下でのシステム同定法はそれぞれ独立に研究されてきた.本論文では,これらの外乱を持続的外乱として統一的に扱うことを考える.また,正弦波外乱の周波数を直接的に得ることのできるシステム同定法を目指す.そのために,持続的外乱が存在する場合に利用するべきシステム同定モデルについて考察し,そのモデルを用いる場合の可同定性条件を導く.


 

■ 集中系・分布系のカオス同期化を用いたRGB画像の秘匿通信

神戸大学・佐野 英樹, 原下 友輔

本稿では集中系・分布系のカオス同期化を用いたRGB画像の秘匿通信を取り上げる. カオスを発生させる集中系として, 一般化エノン写像によって記述される離散時間システムを用い, まずは同期システムを構築する. その離散時間カオスシステムは3次元の状態変数をもつので, RGB画像に対する秘匿通信システムを設計する際に好都合である.
しかしながら, 一般化エノンシステムと同期システムの共通暗号鍵は数が少ない上に鍵長が小さく, セキュリティ面で脆弱である. そこでセキュリティを高めるため, 送信側では行ごと事前に設定した一定の間隔でランダムなデータを挿入しながら変調して送信し, 受信側では拡張された行ごと復調しながら決められた一定の間隔でデータを抽出する方法を考える. その行ごとに設定する一定の間隔が共通暗号鍵になるが, 本稿ではロジスティック境界条件をもつ1階双曲型偏微分方程式で記述される分布系のカオス同期化に着目し, それらの解のスナップショットを利用して共通暗号鍵を自動生成する.



[ショート・ペーパー]

 

■ LSTMを利用したバスケットボールにおけるシュートフォームの自己学習システム検討

 

阿南工業高等専門学校・岡本 浩行, 中山 陽太, 太田 健吾

我々はクラブ活動の教育コストを削減するためにバスケットボールのシュートフォームについてセルフトレーニングをサポートするシステムを開発した.学生のシュートフォームを改善するためのアドバイスは,LSTMを使用した時系列の機械学習に基づいて生成される.