論文集抄録
〈Vol.59 No.8(2023年8月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ モデル軽量化のためのモジュール構造をもつ深層ニューラルネットワークの提案

トヨタ自動車・高野 靖也,群馬大学・川口 貴弘,マツダ・朝見 聡,
佐々木 理沙子,杉元 聖和,進矢 義之,慶應義塾大学・足立 修一

本論文では,モデル縮約のためのモジュール構造を持つ深層ニューラルネットワークと,そのモデルの学習に適した評価関数を提案する.提案するモデル構造は,各層がモジュール化されていることで,層数の調整による縮約が可能である.その結果,モデルの計算負荷を速やかに切り替えることが可能となる.さらに,再学習を行わずに縮約モデルの精度を維持できるように,モデル出力の誤差の層数に関する加重平均を評価関数とする.数値例を通して,提案法の有用性を検証する.


 

■ ツイン投光差分方式を用いた厚鋼板表面検査装置

JFEスチール・大野 紘明,楯 真沙美, 飯島 慶次,JFEテクノリサーチ・大重 貴彦

鉄鋼製品における表面品質,特に表面欠陥の有無は外観上や強度保証の観点から非常に重要である.自動車用の薄鋼板に関しては,表面性状が均一であり欠陥と健全な部位の区別が容易であるため,主に光学式検査装置を用いた検査の自動化が進んできた.一方,建築物やインフラ等に用いられる鋼管や厚鋼板では人による目視検査が未だ主流である.これらの鋼材には「黒皮」と呼ばれる無害な鉄の酸化膜が表面を覆い,酸化膜の模様と凹みを持つ欠陥との区別が難しい点が検査の自動化を妨げていた.筆者らは黒皮模様の課題に対し,新しい光学的手法である「ツイン投光差分方式」を用いた表面検査装置を開発した.本手法は2方向から投光し別々に撮像した2画像の差分を取ることにより黒皮模様の信号を低減,陰影の異なる凹欠陥の信号のみ検出可能とし,黒皮が付着した鋼管の自動検査を実現した.
本論文では,「ツイン投光差分方式」に対し厚鋼板向けにさらなる研究開発に取り組んだ結果を報告する.具体的には,光学実験と反射モデルのシミュレーションに基づいて欠陥検出性能に対し最適な光学系を検討し,入射角や視野などの最適な光学設計の指針を明らかにした.得られた知見を表面検査装置の設計に用いることで,実用的な厚鋼板の自動表面検査を実現した.


 

AR技術を用いたシミュレーターによるメカトロニクス教育支援

九州工業大学・古賀 雅伸, 鶴 直輝

ものづくり教育や創造教育への関心の高まりに伴い,メカトロニクス教育に関する体験学習や課題学習のための教育プログラムの提案や実施が増加している.そして,教育プログラムにおいて教育効果を高めることを目的として実機のロボット等のメカトロニクスを使った実験・実習を行うことが増えている.しかしながら,実機のロボット等を準備したり保守したりする負担は小さくない.また,近年の新型コロナウイルスの感染拡大の状況を考えると,複数の人間が同じロボット等を使いまわして使用するのは好ましくない.
本研究では,拡張現実感(Augmented Reality,以下AR)技術を用いたメカトロニクス教育支援のためのシミュレーターglMode.js(glTF Motion Designer)を開発した.
glMode.jsを教育プログラムにおいて用いることで,実機のロボット等を準備したり保守したりするための負担を軽減でき,感染症拡大を防止する効果が期待できる.また,AR技術を用いることで実機のロボット等を動かすのと同等の体感ができる.アンケート調査により,現実感の増長や実機のロボット等を動かすイメージを持って作業を行うことができることを確認した.