論文集抄録
〈Vol.60 No.1(2024年1月)〉

タイトル一覧
[第23回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会特集号]

[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論 文]

■ セラピーロボットのストレス緩和効果を高める硬度の実験的検討

大阪大学・林 里奈

ソフトロボティクスの進展に伴い,柔軟アクチュエータやセンサを搭載した柔らかいロボットが増加すると予想される.本稿では,心理的・生理的ストレス緩和効果を有するロボットとして,適切な硬度を,アスカーC硬度0程度,3程度,6程度の3種類の硬度のロボットとのふれあいにより得られる効果を比較する実験を通して定量的に検証した.その結果,アスカーC硬度6程度のロボットとのふれあいを通して得られる心理的ストレス緩和効果(特に緊張と抑鬱の緩和,活気の向上効果),生理的ストレス緩和効果(特にα波の向上効果),ともにそれ以下の硬度のロボットとのふれあいを通して得られる効果と比較して,有意に低いことを確認した.その一方で,それ以下の硬度のロボットとのふれあいを通して得られる効果に有意な差は確認できなかった.したがって,ロボットの硬度の差が識別可能な範囲内において,ロボットの硬度が低いほど,ふれあいを通して得られる心理的・生理的ストレス緩和効果は高いといえる.また,実験参加者へのインタビューより,少なくともユーザが期待する硬度の順応水準の範囲以下となるよう留意する必要があることを確認した.


 

■ 他個体との接触がクロヤマアリの探索効率性に果たす役割

創価大学・平野 雄暉,﨑山 朋子

本論文では, 他のアリとの接触がアリの探索行動に与える影響について検討した.ANTAM内に森林アリを配置し, 30秒ごとに他のアリと接触させ, 5分間の探索行動を記録した.その結果, アリは直進性を維持しつつ, 方向転換を伴う局所探索を実現していることがわかった.


 

■ 記憶の短さで出現するレヴィウォーク

創価大学・大川原 正夫,﨑山 朋子

本研究の目的は, エージェントの記憶に着目した方向比較モデル(Direction Comparison model)を考案し, 探索パターンと記憶関連パラメータとの関係を調べることである.
DCモデルは, 過去と現在の2つの方向を比較し, 移動方法を変化させる.その結果, 直近の記憶と比較する場合はレヴィウォークが現れ, 古い記憶と比較する場合はレヴィウォークが現れないことがわかった. またこれらの結果は,ルール変更の頻度と関係があることも明らかとなった.


 

■折り鶴の自動化を目指したロボット折り紙システム

安川電機・坂田 誠智,横浜国立大学・前田 雄介,三菱重工業・鈴木 成也

カッティングプロッタを用いて鶴の展開図の通りに折り筋を付加し,折れやすくした折り紙を用いて,折り紙作品を自動で完成させるロボットシステムの開発を行っている.使用ロボットはデンソーウェーブ製COBOTTAとElephant Robotics製のmyCobotである.紙を置く土台に吸着パッドを配置し,真空圧力で紙を固定することで折り動作をサポートした.複雑な折り動作に対しては専用のツールをロボットがつかみ手先を変えることで対応した.これらの装置を使うことで,袋折り・花弁折りを含む,折り鶴の工程の半分以上の自動化を実現した.


 

■ 屋内SLAMのためのLiDARと偏光カメラを用いたガラスの3次元座標推定

 東京大学・荻原 佑介,樋口 寛,伊賀上 卓也,淺間 一,Qi An,山下 淳

本研究は偏光カメラとLiDARを用いてガラスの位置を推定する手法を提案する.
レーザ光線はガラスを透過,または表面で反射するため,LiDARで構造物の3次元計測を行う場合,ガラスの3次元点群を正しく取得することができない.一方,ガラス表面を反射した光は直線偏光度が高くなる.そのため,偏光カメラを用いることでガラスの存在する方向を測定できる.そこで,偏光カメラによりガラス判定を行い,その判定に基づき周囲の窓枠の位置から点群補完を行う.これにより,ガラスが存在している箇所の3次元点群を推定する.実験では室内環境においてLiDARでは計測できなかったガラスの位置を補完することに成功し,提案手法の有用性が示唆された.


 

■ リアルタイム実行環境におけるオープンソース 出版/購読型通信ミドルウェアの性能評価

千葉工業大学・清水 正晴

実環境下においてリアルタイムで動作するロボットを実現するためには複数のソフトウェアモジュールの連携が重要である.そこで本稿では四つのオープンソース出版/購読型通信ミドルウェア(Fast DDS,Cyclone DDS,iceoryx,eCAL)の共有メモリプロセス間通信を対象にリアルタイム実行環境における性能を評価した.性能評価実験では,二つのロボットシステムを設定し,リアルタイム実行環境を担保することで通信ミドルウェアの通信遅延・出版処理時間の測定を行った.評価実験の結果から定量的に最も性能が高い通信ミドルウェアはiceoryxであることを示した.本研究により時間制約の厳しいリアルタイムロボットアプリケーションにおいても誰でも入手,利用できるオープンソース通信ミドルウェアを用いて複数プロセスによるモジュール化が可能であることを示した.また,通信ミドルウェアにおいてメッセージのコピーや直列化が性能に大きな影響を与えることを定量的に示したことで今後の通信ミドルウェアの設計,開発に有用な示唆を提供できたと考える.


 

■ 張力フィードバックによる拮抗二関節筋の自律的協調制御

松江工業高等専門学校・中西 大輔,門脇 唯菜,
重松 大樹,大阪大学・浪花 啓右,杉本 靖博

空圧筋を用いた筋骨格ロボットは歩行や走行といったダイナミックな運動が可能であることが知られている一方で,圧力弁の開閉タイミングの調整などの試行錯誤によって制御されることが多かった.これに対して我々は筋骨格系の特徴である拮抗駆動に着目し,拮抗筋同士の自律的協調を利用して周期運動を生成する「張力フィードバック協調制御」を提案している.本稿ではこの制御則を,四脚歩行動物の後脚を模した拮抗二関節筋を有する二自由度脚モデルに適用し,拮抗二関節筋の自律的協調と周期運動の生成に関してシミュレーションと実機実験による検証を行った.シミュレーションの結果,提案制御則によって拮抗二関節筋が自律的に協調することを確認した.またフィードバックゲインの選び方によって,拮抗筋が共収縮する,交互に収縮する,釣り合いの位置で静止するなど協調の様子が5パターンに変化し,その結果複数パターンの遊脚運動を自律的に生成可能であることを示した.さらに実機実験においても,提案制御則によって拮抗二関節筋が自律的に協調することを確認した.またシミュレーションで確認した協調モードのうち3種類を実際に確認し,複数パターンの遊脚運動を自律的に生成することに成功した.


 

■ 回転頭角を有する配管用移動ロボットの推進機構に関する研究-偏心した回転頭角と柔軟な織毛によるロボットの推進と方向転換の実現-

山形大学・多田隈 理一郎,岡田 龍斗,酒井 柊,菅井 祐太

老朽化した管渠は年々増加しており,これらの配管設備の点検による事故の防止や欠陥個所特定を効率的に行う必要がある.本研究では,この問題を解決するために,小型・軽量化が容易な繊毛を用いた振動推進型管内探査ロボットを開発している.従来の管内探査ロボットでは特に,T字分岐管において経路を選択する手法や,機体後方に推進する手法に対する課題があった.そこで,ボディ先端に能動回転する偏心式の角を取り付けることで,機体の歳差運動に基づき螺旋状に推進する配管用移動ロボットを開発した.この頭角機構を用いて,T字分岐管において任意方向の配管にロボットを誘導することに成功した.また,頭角機構の回転方向によって繊毛傾角を制御することにより,配管内での進行方向を切り替えることが可能な繊毛構造を設計・製作した.さらに,提案する機構に基づいて製作された試作機の前進・後進の切り替え動作および経路選択手法を検証するための評価実験を行い,提案機構の有効性を示した.その上で,試作機の移動速度と頭角機構の回転速度との関係について検証するための評価実験を行い,提案する機能が実現可能であることを確認した.


[ショート・ぺーパー]

■ 視覚運動反応に及ぼすMT野への経頭蓋直流電流刺激の効果

大阪大学・嵯峨 瑞貴,小見山 高明,
青山 千紗,七五三木 聡,関西学院大学・嵯峨 宣彦

MT皮質への経頭蓋直流刺激(tDC)が視覚運動応答に及ぼす影響を,ランダムドットキネマトグラムによって生成された視覚運動方向識別タスク(MDD)を使用して調査した.刺激前後で反応速度に変化はなかったが,測定電極位置とMT領域の間で脳波コヒーレンス値が増加する領域があった.


 

■ 大型台形の弾性体を用いた連続飛び移り座屈駆動式魚型ロボットの開発

松江工業高等専門学校・中西 大輔,吉岡 祐亮

本研究では,魚が見せる急旋回急加速といった高機動な遊泳運動に着目している.これに対して我々は,高機動な遊泳の実現には瞬発力のある駆動機構が必要であると考え,「飛び移り座屈」という現象を応用した魚型ロボットを開発している.先行研究においてはDC モータを動力とする連続飛び移り座屈機構を提案し,遊泳速度の向上に成功した.また別の先行研究においては,弾性体のたわみ具合をリアルタイムに制御可能なワイヤ駆動型飛び移り座屈機構を提案し,それを用いて魚の様に胴体部をくねらせて泳ぐことが可能な魚型ロボットを開発した.本稿では,魚らしいしなやかな遊泳の実現および遊泳速度の向上を目的として,これらを組み合わせた方式の魚型ロボットを開発した.また駆動力を高めるために,弾性体を台形としてその面積を最大化した.遊泳実験の結果,開発した魚型ロボットは魚の様に胴体をくねらせて遊泳し,また遊泳速度を向上させることに成功した.