論文集抄録
〈Vol.60 No.12(2024年12月)〉

タイトル一覧
[論 文]
<特集 第29回ロボティクスシンポジア特集号>

 


 

[論 文]

■ ロバストな作業識別のための余事象動作分類と隠れセミマルコフモデルを用いた介護作業識別

北海道大学・島田 悠之介,神奈川県立産業技術総合研究所/横浜国立大学・迎田 隆幸,
北海道大学・日下 聖,産業技術総合研究所/北海道大学・遠藤 維,多田 充徳,宮田 なつき,北海道大学・田中 孝之

本論文では,詳細な介護記録を作成するために要素動作による作業表現と作業識別手法を提案する.本手法は,作業を要素動作の時系列として記述し,介護作業を検知する.作業中のイレギュラーな動作や誤った動作ラベルに対してロバストな作業識別を実現するために,要素動作の一部を余事象動作として1つのクラスに統合する.本研究で提案する隠れセミマルコフモデルを用いた作業識別手法では,要素動作の時系列データを用いることで状態遷移の確率分布に基づき,実施された介護作業を識別することができる.実験では,3つの模擬介護作業を計測し識別を行った.また,人工データを用いたシミュレーションを行い,提案法のロバスト性を検証した.さらに,実際の介護施設での介護作業を計測し,作業検知が実現可能かどうかを確認した.結果,提案法の有効性が実証された.


 

■ F3-SLAM:柔軟なセンサ構成に対応した高速かつ高精度なSLAM

パナソニックアドバンストテクノロジー・劉 陽,山本 和成,
松井 敦史,高橋 三郎,阿部 敏久

本論文では,2つの主要な特長を持つ新しいSLAMアルゴリズムを提案する.第一の特長は,高速かつ高精度を両立させるスキャンマッチング手法である.提案手法では,複数解像度のボクセル地図を用い、各ボクセル内で効率的に特徴量を更新することで,スキャンマッチングに最適なボクセルを解像度と特徴量に基づいて選択できる.第二の特長は,柔軟なセンサ構成に適応可能な密結合のSLAMフレームワークである.このフレームワークは,特定のセンサ構成や前提条件を必要とせず,車輪オドメトリやIMUなどのセンサデータの有無に応じて自動的に最適な密結合を実現する.実験結果により,提案された手法は低スペックCPUにおいてリアルタイム処理が可能であり,既存の先進的なSLAM手法と比較して高い精度を達成できることが確認された.


 

■ F吊り下げ搬送下の面状柔軟物に対するコーナーのリアルタイム認識とロボットによる追跡・把持

東京大学・村上 友規,村上 健一,山川 雄司

本論文では,吊り下げ搬送中の動的な面状柔軟物のコーナーをロボットで把持する方法を提案する.従来,面状柔軟物の把持操作は,静止/準静止状態にある場合,あるいは形状が予測可能な場合に限られており,動的状態での把持に関する研究は少ない.そこで本研究では,高速ステレオカメラを用いた環境設置型ビジョンシステムと,高速カメラとDOE(Diffractive Optical Element)付きレーザを用いたロボット搭載型ビジョンシステムから構成される協調ビジョンシステムを新たに導入することで,動的な面状柔軟物の把持を可能にすることを目的とする.協調ビジョンシステムを用いた,動的な面状柔軟物のコーナー状態をリアルタイムに認識する手法を提案するとともに,面状柔軟物のコーナーを追跡・把持する手法を提案している.結果として,一連の操作における把持実行時間は従来よりも約70%高速化し,成功までの実行時間の期待値を約50%短くさせることに成功した.


 

鏡像法に基づく回転翼機における地面効果モデル

大阪公立大学・金田 さやか, 京都大学・中西 弘明, 大阪公立大学・下村 卓

地面効果は低高度における回転翼機の安定性に影響する.本研究は地上付近の回転翼機の飛行安定化を目指す.我々は,地上付近でホバリングするシングルロータの地面効果モデルを提案した.本稿は提案法の詳細な導出を述べる.提案法は,2つの渦でロータを表し,この点はJosephの提案したモデルと同一だが,代表速度の導出過程が異なる.Josephのモデルは物理的にも数学的にも不適切な仮定をおいた.提案法は2つの渦によって引き起こされる誘導速度分布から,地面効果モデルを導出する.提案法ではパラメータとして有効ブレード長を導入した.有効ブレード長は,翼端損失をモデルに考慮したことに対応する.シングルロータの推力計測により,提案モデルを検証した.ブレード形状が地面効果の強弱に影響することを明らかにした.


 

■ 時系列情報を考慮した未学習クラス推定法に基づく5指複合動作によるロボットハンドの制御

横浜国立大学・堀松 壮吾, 竹中 健祐, ・布野 大樹,
神奈川県立産業技術総合研究所/横浜国立大学・迎田 隆幸, 横浜国立大学・島 圭介

本論文では,筋電義手の制御システムにおける未学習クラスの検知と筋シナジーモデルに基づく複合動作の識別を同時に実現する新たなモデルを提案する.上肢切断者の増加とその労働災害による影響を考慮し,筋電義手の開発が重要であると認識する.提案システムは,基本となる手指動作のみの学習によって,その組み合わせからなる多様な5 指動作の識別を行い,学習時に想定していない未学習動作を検知する.これにより,複雑な手指動作を再現しながら,誤動作を抑制する義手の実現が期待される.実験において,7 動作識別条件では識別率が95 %以上であることが確認され,13 動作識別条件では,筋シナジーの発生履歴を利用した状態遷移モデルと未学習動作検知を活用することで,一定の誤識別が低減されることが示された.また,健常者用に義手を模擬した環境下においても複合動作識別と未学習動作の検知を一定の精度で行えることが示された.今後は,学習的に状態遷移モデルを構築する方法の検討などの識別部の更なる改良を行い,上肢切断者への適用を目指して,詳細な検討,評価を行う.また,複合動作時及び動作遷移時の誤識別を低減可能な新しい特徴量を採用し,より高精度なシステムの実装を目指す.