論文集抄録
〈Vol.60  No.5(2024年5月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ データ駆動型Shared Management による油圧ショベルの操作支援制御系の設計

広島大学・平岡 京,山本 透,コベルコ建機・洪水 雅俊,小岩井 一茂,山下 耕治

近年,世界中で「持続可能な開発目標(SDGs)」が注目されている.日本においても,SDGs達成につながるビジョンとして「Society 5.0」が提唱され,様々な組織がこのビジョンの実現に向けて取り組みを行っている.特に,建設業界では「i-Construction」が推進され,人の操作を自動化,または半自動化することで作業を簡易化し,現場の生産性を高めている.しかし,これらはコントローラの介入が常に一定で,人に応じた調整がなされていないことから,自身の操作で作業を行っているという自己効力感が損なわれる可能性がある.そこで,仕事に対するモチベーションを維持するためにも,自身の判断に基づき操作し,優れた作業を行える,人と機械が協調する操作支援システムが求められる.本論文では,油圧ショベルの掘削支援制御において,作業データに基づきコントローラによる操作介入の度合いを自動調整する制御系を提案する.提案法では,作業データを活用し,望ましい特性との差異を評価することで,適応的に操作支援度の調整が可能な協調制御システムを構築する.さらに,提案法を油圧ショベルに実装し,その有効性を検証する.


 

■ 積分特性を含む非線形システムのDNNを用いた同定手法と性能検証

信州大学・西田 周平,千田 有一,種村 昌也

本論文では,プラントが積分特性を含む場合の非線形システム同定を考える.プラントが積分特性を含む場合,DNNを直接非線形システム同定に適用すると,実機の応答とDNNモデルの応答に大きな差が生じる可能性がある.応答誤差を低減するために,積分特性を考慮した構造制約をDNNモデルに追加する手法を提案する.積分特性を含む空圧式除振台の非線形シミュレーションの入出力データを用いて,提案手法の有効性を検証する.


 

■ エリア属性を考慮したオフィス内コミュニケーションネットワークとパフォーマンスの関係性

筑波大学・矢田 昇平,倉橋 節也

2019年に発生したCOVID-19の感染症リスクは,オフィスワーカーのワークスタイルに大きな変化をもたらし,リモートワークが定着したように見えた.しかし,企業は再びオフィスワークに回帰する傾向にもある.このような働き方の変遷の過渡期に,オフィス内の対面コミュニケーションの効果に着目し,従業員の位置情報を利用したエリア属性を持つコミュニケーションネットワーク検出手法を提案する.本研究ではWi-Fiと情報端末の通信ログを用いて調査対象企業の全従業員の位置情報を取得し,データの網羅性を確保する.さらに, コミュニケーションネットワークの総量,位置情報,ネットワーク中心性と従業員のパフォーマンスとの関係を調査するモデルを検討する.その結果,会議室やデスク周辺で組織のキーパーソンと頻繁にコミュニケーションをとる従業員のパフォーマンスが高いことがわかった.


 

■ヴァイオリン演奏動画と楽譜を用いた演奏記号自動記入システムの開発

和歌山大学・谷田 実桜,中村 恭之

弓を使う弦楽器で楽曲を演奏する場合,あらかじめボーイングを決めておく必要がある.そのためには,楽曲の知識が必要であり,ボーイングを決める能力を獲得するには多くの時間を必要とするので,初心者がボーイングを決めるのは困難である.
そこで,本論文では,ヴァイオリンなど擦弦楽器の演奏映像から弓の動きと音響情報を取得し,楽譜上にボウイングを自動で書き込みを行うシステムを提案する.このシステムによって,熟練演奏者のボウイングの参照や複数の演奏者のボウイングの比較が容易に可能になり,演奏技術における習熟度や,楽曲に対する理解度を高めることに役立つと考えられる.検証実験の結果,提案システムにより,童謡楽曲では正解率90%以上の精度でボウイングを推定することができた.