論文集抄録
〈Vol.60 No.7(2024年7月)〉

タイトル一覧
[論 文]


 

[論 文]

■ 最大電力点周りでシリコン太陽電池と近い過渡特性をもつペロブスカイト太陽電池モジュールの提案

電気通信大学・定本 知徳,下島 大和

ペロブスカイト太陽電池(PSC)は,広く普及しているシリコン太陽電池(SSC)と同程度の高い電力変換効率を持ちながら,薄型・軽量で曲面への設置に適していることから急速に注目を集めている.一方,PSCは過渡的な電流-電圧特性にヒステリシス性を持つことが知られている.そのためSSCと比較して発電性能が不確実となり,本格的な実用化を阻む要因の一つとなっている.本研究では,PSCの物理的な利点を維持しつつ,最大電力点(MPP)付近の過渡特性をSSCに類似させた新しい電池モジュールを提案する.このモジュールはPSCとモデルマッチングコントローラで構成され,定常的な電流-電圧特性はそのままにMPP付近の過渡特性のみを調整する.さらに,ヒステリシス特性は製造プロセスによって変化する可能性があるため,グレーボックスモデリングによってコントローラを設計する.最後に,PSCの等価回路モデルを用いた数値シミュレーションにより提案モジュールの有効性を検証する.


 

■ 外乱存在下での実行可能性を保証したSignal Temporal Logicによるモデル予測制御アルゴリズム

慶應義塾大学・朽木 瑛,滑川 徹

本研究では,Signal Temporal Logic仕様に基づく外乱を考慮したモデル予測制御問題を扱う.本論文では,STL仕様のもとでのモデル予測制御問題の実行可能性について理論的に解析し,再帰的実行可能性の十分条件を導出する.また,初期状態によって ,対象とする問題が再帰的な実行可能性を満たすか否かについて判定し,実行可能な場合にはSTL仕様を満たしながらモデル予測制御を行うアルゴリズムを提案する.最 後に,自動運転車を用いた一般的な車両走行シナリオにおいて,理論結果と数値結果が一致することを確認することで,提案手法の有効性を示す.


 

■ X線回折波2重撮影法に基づく屈折コントラストCTの再構成理論

名古屋大学・黄 卓然,砂口 尚輝,山形大学・湯浅 哲也,
大阪物療大学・島雄 大介,名古屋医療センター・市原 周,西村 理恵子,岩越 朱里,
Catholic University of Daegu・Jong-Ki Kim,
Massachusetts General Hospital・Rajiv Gupta,
高エネルギー加速器研究機構・安藤 正海

放射光X線を用いる位相コントラストCTは、生体軟組織を高コントラストで撮像でき、生体試料内の微小解剖構造を解明するために利用されている.しかし、これまでに提案された撮像手法は、被写体とX線カメラの間に一定の距離を設ける必要があっため、この距離に起因する半影による被写体のボケが生じていた.このボケを低減するために、我々はX線を可視光に変換するシンチレータと屈折コントラストを生成するラウエ型Si単結晶を密着させた光学デバイスを利用するX線回折波2重撮影法(SWIDeX Superimposed wavefront imaging of diffraction-enhanced X-ray)を提案した.この方法は、被写体とX線カメラの間の空間を最小にすることができ、従来の方法よりも高い空間分解能を得ることができる.本論文では、SWIDeXを用いたCT再構成アルゴリズムを導出し、放射光X線を用いた実際の撮像実験から提案手法の有効性を実証する.


 

ダイナミックプライシングによる負荷周波数制御-受動性に基づく設計と安定性解析-

慶應義塾大学・柴田 康智,滑川 徹

本論文では,デマンドレスポンス(DR)を考慮した負荷周波数制御(LFC)システムのダイナミックプライシング設計と,システム全体の安定性解析を扱う.ダイナミックプライシングは,需要家と供給者間のエネルギーバランスの調整を目的としており,受動性の性質を用いることでシステムのリアプノフ安定性と漸近安定性を達成するよう設計されている.その際,システムの受動性を解析しやすいようLFCシステムををネットワークシステムとエリアシステムに分解しており,各エリアシステムに於いては,供給者のコスト関数とDR参加者の効用関数に基づいたダイナミックプライシングが設計される.加えて,エリアシステムの発電機等の物理ダイナミクスには十分な受動性がないため,その受動性の欠如を補うような定式化を行う.シミュレーションの結果,提案するダイナミックプライシング手法の下では,周波数偏差やその他の変数が一定の値に収束することが示された.