Vol.60,No.8
論文集抄録
〈Vol.60 No.8(2024年8月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 森林調査用エンジン駆動型マルチコプタの飛行経路生成
- ■ 範囲モデル予測型血糖値制御で用いられる入力ペナルティ関数の学習
- ■ 脳神経外科手術模擬のためのくも膜下腔3Dモデルの作成手法の提案
- ■ 歯車型磁気式ロータリエンコーダの3次元軸ガタ及び角度高精度検出に関する研究
[論 文]
東京電機大学・寺田 勇登,臼倉 立起,増田 直己,岩瀬 将美
本研究では,LiDARを搭載した森林調査用マルチコプタを林内に飛行させ,林業に有益な情報を提供する森林三次元点群地図を作成することを目的とする.このとき,マルチコプタが林内を飛行しながら隈なく計測できるよう,基本飛行経路の生成,樹木などの障害物回避経路の生成,オクルージョンを考慮した計測ウェイポイントの探索が必要となる.本論文では,これらのタスクを遂行するアルゴリズムを提案する.数値シミュレーションを通じて,提案アルゴリズムの有効性を検証したところ,従来法に比べて平均カバー率で2 %の上昇,最小カバー率で6.2%の上昇,最大カバー率で2.4 %の上昇,標準偏差で0.29の減少が確認でき,障害物を回避しつつ林内を飛行するルート生成に成功した.
■ 範囲モデル予測型血糖値制御で用いられる入力ペナルティ関数の学習
神戸大学・飯村 由信,若生 将史
1型糖尿病患者の血糖値制御は,血糖値を許容範囲内に収めることを目的とする.血糖値制御で用いられる注目すべき制御手法としてzone MPCが挙げられる.Zone MPCでは制御モデルによる予測をもとに制御入力を決定するが,血糖値制御の場合は詳細な制御モデルを各患者に対して同定する難度が高い.そのため血糖値制御に対す るzone MPCの先行研究では,簡易な制御モデルを用いて血糖値を予測し,入力ペナルティ関数により算出されるインスリン投与量を補正している.
しかし,入力ペナル ティ関数のパラメータがある1つの食事シナリオ下で特定の患者集団に対する制御性 能を向上させるように最適化されているため,最適化時と異なる食事シナリオや個別の患者に対して十分な制御性能が得られない場合がある.
そこで本稿では,制御下で安全に入力ペナルティ関数を学習する手法を構築する.これにより各患者の制御下で入力ペナルティ関数を学習することが可能となり,様々な食事シナリオに対する制御性能を患者ごとに向上させることができる.
■ 脳神経外科手術模擬のためのくも膜下腔3Dモデルの作成手法の提案
弘前大学・陳 暁帥,高橋 優里,加藤 萌喜,須田 智輝,北海道大学・澁谷 紗也華,
東北学院大学・佐瀬 一弥,防衛大学校・辻田 哲平,弘前大学・岡 和彦,北海道大学・近野 敦
脳神経外科手術における脳血管の温存には高精度な手術技術が求められる.脳血管が存在するくも膜下腔は非常に繊細のため,経験の浅い医師はこの部分で失敗しやすい.脳血管温存の鍵はくも膜に適切な張力をかけることにある.脳外科手術シミュレータは血管温存手技の訓練に役立つと期待されている.しかし,これまでの手術シミュレータでは,複雑で入り組んだ構造を持つくも膜下腔の3Dモデルを作成することが困難であったため,くも膜下腔を考慮していない先行研究が多かった.この課題を解決するために,くも膜下腔を含む脳モデルの作成手法を提案した.提案したモデルでは,患者の医用画像から作成した脳と血管のモデルをシミュレーションにより柔らかい布で包み,成形した布をくも膜モデルとする.
また,くも膜小柱の数や配置は不定であるため,隣接するくも膜小柱を束ねて1本の円柱として近似し,くも膜下腔にランダムに配置する.このくも膜小柱モデル作成法の有効性をシミュレーションにより検証した.さらに,シミュレーションの有限要素法に基づいた数値計算方法を説明し,作成したくも膜下腔モデルを用いたくも膜引張るシミュレーションを行った.このシミュレーションにより,術者がくも膜を引張るのに必要な力を体験できる可能性を示した.
■歯車型磁気式ロータリエンコーダを用いた回転機構の3次元軸ガタおよび角度高精度検出に関する研究
多摩川精機・小島 隆臣,下平 勝紀,田村 健一,
産業技術総合研究所・渡部 司,エ・モーションシステム・大貫 康治,渡部 恵教
加工現場においては、加工精度の向上と工作機械の故障予知の要求が高まっている.工作機械には,耐環境性に強い歯車型磁気式ロータリエンコーダが使用されている.そこで光学式エンコーダと同等の高精度化と回転軸の軸ガタ検出機能を有する安価な歯車型ロータリエンコーダの開発を行い,工作機械の加工精度の向上と軸ガタ発生による故障の予知に資する研究を行う.
本論文では, 歯車型エンコーダの角度誤差のうち高周波数成分誤差の低減には角度の電気内挿信号のオートチューニング技術やROM補正技術を用い,低周波数成分誤差の低減には角度の自己校正技術を用いて,角度精度± 0.8″の高精度化を実現する.さらに歯車型エンコーダに回転軸の三次元軸ガタ検出機能を付加し,工作機械の故障予知に要求される1μm~数百μmの軸ガタ検出を実現する.
また,軸ガタ検出結果から軸ガタ発生要因と軸受け寿命を推定するAI分析,軸受けの状況を把握するリモート監視のシステムを検証する.