Vol.60,No.9
論文集抄録
〈Vol.60 No.9(2024年9月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ オーディオ入出力遅延を有するオーディオインターフェースに適した気温測定用音響波プローブの構築
- ■ 無信号交差点における歩行者の階層的横断判断モデル
- ■ 見回りと体当たりを利用した開閉判断に基づく小型ロボットによる戸締りの確認と実行
- ■ 歩行車を用いた歩行訓練における骨格推定に着目した歩容解析手法
[論 文]
■ オーディオ入出力遅延を有するオーディオインターフェースに適した気温測定用音響波プローブの構築
筑波大学・藤田 侑希,海老原 格,若槻 尚斗,前田 祐佳,水谷 孝一
気温分布の計測技術は気象,建築,農 業といった様々な分野で重要である.音響波プローブは音波の伝搬時間を計測することで,伝搬経路中の気温を測定できる.また,計測空間の外周に複数の音響波プローブを配置することで,熱電対や測5温抵抗体といった点計測型温度センサに比べて,少ないセンサ数で気温分布を計測することができる.音響波プローブは,外部トリガによる動作タイミングの制御が可能か,入出力遅延が十分に小さい計測用のDAC/ADCが不可欠であり,シングルボードコンピュータに搭載されるオーディオインターフ10ェースのような既存のプラットフォームを活用しづらいことが課題であった.そこで,本研究では,オーディオインターフェースが有する多チャンネル入出力機能を活用することで,その動作タイミングにランダムな遅延が発生しても伝搬時間を精密に計測できる手法を確立し,実験を通じて提案手法の15測定精度を評価した .その結果,経 路長が2.48mのとき,気温計測誤差は,遅延をオフセットを引いて補正した場合0.93℃であるのに対し,提案手法は0.36℃であり,提案手法は入出力遅延の影響を除去し,正確な気温計測が可能であることを明らかにした.
名古屋大学・西本 宇志,山口 拓真,奥田 裕之,鈴木 達也,
トヨタテクニカルディベロップメント・脇坂 龍,伴 和徳
一般道を含む自動運転を安全に実現するためには,交通弱者である歩行者の行動を理解して予測することが重要である.歩行者は周辺の交通参加者を考慮しながら判断を決定して行動しており,歩行者の行動を把握するために判断のモデルが提案されてきた.しかしながら,車両台数などの交通状況が複雑になると,モデルが複雑化して規模が大きくなり,モデル化が難しくなる.その問題を解決するために,本論文では,歩行者の横断判断を各交通参加者に対する判断に分割することにより,規模の小さいモデルを用いて横断判断をモデル化する.提案モデルでは,歩行者の横断判断をベイジアンネットワークにより表現して,各交通参加者に対して分割された判断をロジスティック回帰によりモデル化した.インタラクティブなマルチプレイヤー型シミュレータを用いて歩行者の行動データを取得して,提案モデルの学習と検証を行った.提案モデルの精度は従来モデルの精度と同程度であり,提案モデルの有効性が示された.提案モデルは複雑な状況における歩行者の横断判断を規模の小さいモデルにより表現することに成功して,車両台数の変化に対するモデルの柔軟性が増した.
■ 見回りと体当たりを利用した開閉判断に基づく小型ロボットによる戸締りの確認と実行
電気通信大学・生玉 昂大,川口 幹太,滝澤 優,末廣 尚士,工藤 俊亮,木村 航平
生活空間内の防犯等の観点からも巡回型のロボットによる戸締りの確認と実行は有用であり,本研究では小型ロボットによるドアの戸締りタスクを目的とする.小型ロボットは生活空間への導入が容易である一方で,自身の体と比べて大型かつ重量のあるドアを閉める際,小型であるために姿勢を崩してタスクを継続できない問題がある.この問題を解決するために,RGB-Dカメラを利用した見回りにより開いた状態のドアを認識し,ドアに向かって自身の姿勢を崩さないように体当たりを試行する.結果として本来の倍の重量であるドアでも戸締りが可能となった.また,ドアクローザーの有無から自律的に戸締りの経路を判断することが可能であり,障害物となるドアストッパーをマニピュレータで取り除くことで,一連の作業を実行する.最後にドアが正常に閉じたかの確認と適切な対処を行い,逐次的に開閉を判断しながら戸締りを確認かつ実行する.
■歩行車を用いた歩行訓練における骨格推定に着目した歩容解析手法
東北工業大学・中山 英久,小川 和敏,丸山 次人
歩行車を用いた歩行訓練時の骨格推定に着目した歩容解析手法を検討した.歩容角度パラメータの精度を確保するために,実験参加者の矩形範囲を動的に抽出する方法を提案した.さらに,歩容角度パラメータの振幅を周波数分析したスペクトルを評価として用いることを提案した.その結果,我々の開発した歩行車の左右肘荷重バランスと左右の姿勢安定性に相関のあることを見出した.このことから,歩行車で姿勢の安定性を評価できることが示唆された.