論文集抄録
〈Vol.61  No.5(2025年5月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ Teacher-Student構造適応型深層学習によるセグメンテーションと送電鉄塔外観点検画像劣化診断への適用

県立広島大学・市村 匠, 広島市立大学・鎌田 真, 中電工・山口 亮, 田中 耕一

Restricted Boltzmann Machine(RBM)とDeep Belief Network(DBN)を用いて,入力データ空間に応じて適切と考えられる隠れニューロン数,及び隠れ層数を学習中に自動で定める構造適応型深層学習法を提案した.さらに,アンサンブル学習法の一つとしてTeacher-Student(T/S)構造適応型学習法を提案し,画像ベンチマークデータセットや,医療画像診断,顔感情分類などの実データに対して,従来手法よりも高い分類性能を示した.本論文では,提案手法を,ドローンを用いた送電鉄塔外観点検画像における劣化箇所自動診断に応用した.また,鉄塔画像には,部品以外の背景も含まれることから,検出された矩形の中で,判定の根拠となる領域をヒートマップとして出力するセグメンテーション機能を開発した.実験の結果,テストデータに対して97.57%の検出精度を示した.


 

■ 半導体製造における成膜条件最適化を対象とした実験計画法の比較

KOKUSAI ELECTRIC/京都大学・平井 都志也,川岸 隆之,
坂寄 寛幸(フリーランス), 京都大学・加納 学

   半導体設計ルールの進化に伴い,半導体製造装置に求められる信頼性のレベルが高まる中,顧客が要求する特性を満たす最適な製造条件を見出す必要がある.半導体の成膜工程では800℃近い温度でウェハを処理するため,熱の作用による交互作用や2次項作用を考慮する必要があるが,従来から用いられている単一因子実験による探索では,これらの効果をモデルに反映できない.加えて,成膜装置では1回の実験に8時間近く要するため,多くの因子を網羅的に実験するには,膨大な実験コストを要する.本研究では,成膜装置において最適な製造条件を導出するための実験計画に,決定的スクリーニング計画とD最適計画の実験計画法を用いた.実機実験は過大なコストを要するため,過去の実験データからブースティングニューラルネットワークモデルを構築し,これを仮想装置として実験を行った.単一因子実験,D最適計画,決定的スクリーニング計画により構築した各々のガウス過程回帰モデルから10個の膜特性を得て,顧客が求める膜特性との差を比較した.結果として,実験回数が同じ場合,D最適計画が成膜装置において最適な製造条件を導くのに最も適していることを明らかにした.


 

■ 相対位置を確定しない複数のLRFを用いたカーリングストーンの軌跡測定システムに関する研究

信州大学・曽根 忠瑛, 河村 隆

現在, カーリングストーンの動力学メカニズムは未だ解明されておらず, 戦術の定量的分析も十分ではない. これらの研究を進めるためには精密な軌跡データが不可欠であるが, 既存の測定システムは設置の煩雑さや他のシステムとの連携に課題がある. このような背景から, 本論文では容易な設置と高い拡張性を備えた新たな軌跡測定システムを提案する. まず, レーザーによる物体検出が可能なLRFを複数用い, それらの相対位置を推定することで測定範囲を拡大する手法を開発する. つぎに, クラスタリングと最小二乗法を組み合わせてストーンの中心位置を特定し, 複数のLRFから得られた情報を統合する方法を提案する. さらに, ROS2を用いたリアルタイム処理により, 他システムとの柔軟な連携を実現する. 最後に, モーションキャプチャとの比較実験及び実際のカーリングホールでの測定により, 提案システムの有効性と実用性を確認する.


 

■睡眠の質に対する主観的評価と客観的評価のズレへの気づきを促すための定性的フィードバック手法の提案

近畿大学・須藤 秀紹, 内田洋行・田中 菜月, 双日テックイノベーション・最上 徹義

本稿では,睡眠の質に対する主観的な評価と,データから得られる客観的な評価の間のズレを当事者に気づかせるためのシステムを提案する.提案システムは(1)グラフィック表現による間接的な可視化によって主観的な評価とデータから得られる客観的な評価の間のズレに気づくことができる,(2)利用者へのフィードバックに定性的可視化手法を導入することで利用者の継続利用意慾が向上する,という2つの仮説に基づくものである.提案システムでは,モンドリアン風の抽象的なグラフィックパターンを用いて,客観評価と主観評価のギャップと客観評価を表現する.仮説を検証するために5週間にわたる実証実験を実施して15名の被験者からのべ45サンプルのデータを取得した.実験結果を分析,考察した結果,上記2つの仮説が支持されることがわかった.