論文集抄録
〈Vol.61 No.8(2025年8月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論 文]

■ 動的量子化器のデータ駆動型設計の実機検証-モデル化困難な要素を有するモータ制御系への適用-

大阪大学・吉田 侑史, 南 裕樹, 石川 将人, 北九州市立大学・藤本 悠介

本論文では,藤本と南により提案された動的量子化器のデータ駆動型設計とそれによ る量子化器 (D4Q) の実用性について議論する.
産業用制御アプリケーションの多くで は,製造コストやシステムの複雑さ,ネットワーク帯域幅を抑制するために対象とな るシステムは離散値の制御入力のみを受け入れることが好ましい.
そのため,制御値の入力を離散値 に変換する量子化器がこれらのアプリケーションにおいて求められる.
この要求に対し有望なア ルゴリズムの一つとして最適動的量子化器(ODQ)と呼ばれる,対象のシステムの正確な 線形モデルに基づいて離散化の有無による出力の差異を最小限に抑えるものが提案されている.
また,藤本と南は対象のモデルから量子化器を設計するのではなく,入出力データから直接動的量子化器 を設計する新しい設計法を提案している.
本論文では,この設計法による量子化器をD4Qとよび,設計手法を摩 擦などのモデル化が困難な要素を有する電気機械制御システムに適用する.
既存の量 子化手法と比較してD4Qが効果的であり,従来のODQよりも非モデル化された非線形 性に対してよりロバストであることを実験により示す.


■ 評価関数が常に凸となるデータ駆動型フィードフォワード制御器調整手法とその応用

北九州市立大学・中垣 健人, 藤本 悠介

本論文は,フィードフォワード制御器のデータ駆動パラメータ調整について議論する.
特に本論文は,任意の制御器構造に対して評価関数が凸となるような手法を提案することを目指す.
この目的のため,本論文はEstimated Response Iterative Tuning(ERIT)および式誤差モデルによるシステム同定に着目し,それらを用いた評価関数が二次形式となるような手法を提案する.
さらに,提案手法とRecursive Least Squares(RLS)アルゴリズムを活用したフィードフォワード制御器のオンライン調整法も提案する.
また,提案手法の有効性を実機実験により検証する.


■ 追従誤差を単調減少させる逆モデル更新型反復学習制御

北九州市立大学・鶴田 柊哉, 藤本 悠介

本論文は,所望の出力に追従するための入力を反復的に学習するIterative Learning Controlについて議論する.特に本論文は,ILCの一つであるシステムの逆モデルを更新するQuadratically optimal Iterative Inversion Control(Q-IIC)に着目する.Q-IICでは逆モデルが最適なものへ単調収束することが証明されているが,追従誤差の単調減少性は保証されていない.しかし実用的な観点からは,追従誤差が単調に減少するような手法が望ましい.以上の背景を踏まえ,本論文では追従誤差の単調減少性が保証されるようQ-IICを改良した手法を提案する.また,その有効性をモータを用いた実機実験により検証する.


浮遊しているターゲットへの間欠的な制御入力による運動停止法-2次元平面運動での解放-

三菱電機/京都大学・今村 直樹, 京都大学・大塚 敏之

本論文では,初期運動量と初期角運動量を有して浮遊しているターゲットを停止させるフィードバック制御則を導出する.
まず,対象システムは,ターゲットの運動量と角運動量を状態とし,制御入力を力積の大きさと位置で与える非線形離散時間システムとして定式化される.
つぎに,Lyapunovの第2の方法に基づいて状態フィードバック制御則を導出し,この状態フィードバック制御則のもとでのシステムの振る舞いを自律系として解析することで,原点の大域的な漸近安定性を証明する.また.摩擦係数にモデル化誤差がある場合の幾つかの安定条件を示す.最後に,数値例によりその有効性を示す.


[ショート・ペーパー]

■ 線形状態フィードバック制御に飽和要素を追加した制御則として設計した擬似Sliding Mode制御

熊本大学・佐藤 昌之

LPV システムに対する sliding mode 制御の一つの設計法として, 線形状態フィードバック制御に内部飽和要素を追加した制御としての設計法を提案する.なお,提案設計法は,LTI システムに対する線形状態フィードバック制御器の従来パラメトリゼーションを LPVシステムへ拡張することによって得られている.また,数値例によりboundary layer の包含関係を確認し,提案方法の優位性を示した.