論文集抄録
〈Vol.60 No.3(2024年3月)〉

タイトル一覧
[第10回制御部門マルチシンポジウム論文特集号]

[論 文]


[論 文]

■ 大規模発電計画の高速最適化:機械学習に基づくアクティブな制約条件の推定と探索領域の限定

東京工業大学・木下 喜仁,石崎 孝幸

天候に応じて発電量が不確実に変化する再生可能エネルギが電力系統に導入されることで,電力系統内で送電線の上限逸脱など運用制約違反が発生する.不確実性がある中でも運用制約を遵守かつ経済的な系統運用ができるように電力系統内の発電機の起動停止や発電量などの発電運用を事前に決定する必要がある.この発電運用は,各時刻各発電機の起動停止をバイナリ変数とした最適発電計画問題を解くことで実現できるが,想定する不確実性,発電機の台数に応じたバイナリ変数の組合せの増加により,実用的な演算時間で解けない課題がある.従来手法では,最適なバイナリ変数を探索する代わりに機械学習の推定値で決定する高速化手法が提案されているが,推定精度が低いと最適性が劣化する課題がある.そこで,バイナリ変数を連続変数とした緩和問題において,推定精度が高い変数から優先的にバイナリ値とし,残りの変数だけを最適化探索した.また,事前に推定した有効な制約条件だけを緩和問題で定義することでも高速化を図った.IEEE-118母線の電力系統モデルを対象に評価した結果,最適性の劣化を0.8%に抑えながら演算速度を最大82%向上できることを確認した.


 

■ 長距離移動のためのスプライン入力型終端状態制御

宇都宮大学・野村 陸人,平田 光男,鈴木 雅康

高速・高精度な位置決め制御において,機械共振を加振しないフィードフォワード入力を生成する方法として,終端状態制御が知られる.通常,終端状態制御は時系列データとして入力が求まるが,それを保存するメモリを削減するために,多項式で入力を生成する方法が提案された.しかし,高次の多項式を用いた場合では,設計時に数値的な問題が生じるため,位置決め時間を複数に分割し,区分多項式を用いてフィードフォワード入力を求める方法が提案された.ところが,この方法においても,数値的な問題が生じる場合がある.そこで本研究では,スプライン関数を用いてフィードフォワード入力を生成する方法を提案する.スプライン関数とは,各区間の多項式をその微分も含めて連続的に繋ぐ関数である.区分的多項式よりも数値的に安定しているため,区分的多項式においても生じていた数値的な問題が回避できることが期待できる.最後に,提案手法の有効性はシミュレーションにより検証する.


 

■ センサ信号の損失に対処するゲイン切替型オブザーバと領域極配置

南山大学・杉本 謙二,奈良先端科学技術大学院大学・永田 篤樹,松原 崇充

本論文では,ネットワーク制御などにおいてセンサから来る信号が計測や通信の失敗により一時的に損失するような場合について研究する.そのような信号損失に対処するため,著者らの一部は以前にゲイン切替型の状態観測器を提案した.その際は信号損失時における安定性に焦点をおいた.しかし実際には,そのような信号損失は正しく信号を受け取る場合より稀であると考えられる.この意味では,正常な受信時には良い制御性能を示す一方,信号損失時には安定性を維持するような制御系を設計すべきである.本論文では連立行列不等式(LMIs)を解くことにより,損失時の安定性を保証しつつ,受信時には領域極配置に相当する性能を発揮する設計手法を提案する.提案法の有効性は隊列走行の数値シミュレーションによって確認する.


 

■ELMによる家庭の電力需要変動の推定に基づいた EV の電力配達経路の最適化

上智大学・黒岩 凜,曹 文静,小笠原 眞友,張 雨

近年,災害の頻度が増加しつつある.災害による停電に備えて,EVを活用したバックアップ電力供給方法が考えられる.そこで,本論文は各家庭の電力需要を予測して,EVで電力を配達する場合,EVの走行ルート計画アルゴリズムを提案した.本論文で提案する手法は,エクストリームラーニングマシーン(ELM)手法を用いて,過去の家庭の電力使用量データでELMのニューラルネットワークを訓練し,各家庭の将来の電力需要を推定する.その後,推定結果を考慮してダイクストラ法を用いて,1台のEVで複数の家庭に電力を供給する場合のEVの走行ルートを決定する.実際の家庭の電力使用量データをもとに,複数パターンの電力供給状況に対してEVの最適なルートを計算した. 各家庭の電力需要を推定せずにEVの走行ルートを決定する従来方式に比べ,提案方式は多くの場合で効率よく電力を供給できることが確認された.


 

■ 制御工学を実践的に学ぶことができるアーム型LEGO倒立振子の開発

 北九州工業高等専門学校・川田 昌克

本研究では,「制御工学」の教材として,LEGO 部品を利用した「アーム型倒立振子」を提案する.この教材モータ・センサや EV3 インテリジェントブロック(マイコン)の代わりに,汎用のモータ・センサや,MATLAB/Simulink に対応している Arduino を使用する.LEGO 部品を利用して本体を組み立てるため,特殊な機械加工技術が不要であり,誰でも簡単に作り上げることができる.また,提案する教材は安全かつコンパクトであり,比較的安い価格であるので,1 人 1 台で使用することが可能である.さらに,振子を取り外したり角度の基準を変更することで「鉛直面を回転するアーム」や「安定なクレーン」として取り扱うことができる.結果として,本教材を利用することでPID制御,モデリングや現代制御を効果的に学習できることを,いくつかの例により示す.


 

■ 高次モーメントを用いた機会制約の近似による非線形確率モデル予測制御

京都大学・深尾 真輝,大塚 敏之

本論文では,初期状態とシステムパラメータに時不変の不確かさを持つモデルに対する,非保守的な非線形確率モデル予測制御(SMPC)を提案する.SMPCでは,ある条件を満たす確率についての制約(機会制約)を課すことで,制約が満たされることの保証と評価関数を最小化することのトレードオフ関係を明示的に考慮する.本論文では,機会制約を近似するために,高次モーメントを用いた確率不等式を導出し,非保守的な制御入力を得る方法を提案する.また,これらのモーメントを推定するために,提案手法は一般化多項式カオス展開を採用する.提案手法をセミバッチ反応器システムに適用することにより,一般化多項式カオス展開がモンテカルロ法よりも少ないサンプル数で高次モーメントを推定できること,また提案手法が平均と分散のみの確率不等式を用いたSMPCよりも優れた性能を持つことを示す.


 

■ ロバスト予測制御に基づくHEVのエネルギーマネジメント

熊本大学・野﨑 凌,川元 裕登,水本 郁朗

スプリット型HEVは,2つのモーターと1つの内燃機関を持ち,走行条件に応じてこれらの動力配分を調節することで燃料消費量を最小化することができる.従来のHEVのエネルギーマネジメントでは,実験データに基づいて作成されたif-thenルールおよびマップ制御を利用したルールベース制御が用いられている.しかし,この方法ではHEVの構造の複雑さから制御系設計も煩雑となり,膨大な時間とコストがかかってしまう.そこで本報告では,モデル予測制御(MPC)の1手法であるロバスト出力予測制御を用いたHEVのエネルギーマネジメント手法を提案する.また,数値シミュレーションにより,提案手法と既存のルールベース制御との比較を行う.


 

■ 動的イベント駆動機構を有するハイゲイン適応出力フィードバック制御系設計

熊本県産業技術センター・道野 隆二,熊本大学・赤池 宏太,水本 郁朗

本稿では,動的なイベント駆動機構を有するハイゲイン適応出力フィードバック制御系の一構成法を提案する.一般的なイベント駆動制御系では,入力を更新しない区間の制御系の安定性を保証するため,最後に更新した制御入力値と連続系として計算される制御入力値との誤差に対する補償項を追加する必要があるが,提案手法ではハイゲインフィードバックの不確かさに対する高いロバスト性から,補償項を追加することなく制御系の安定性が保証できる.さらに一例ではあるが,イベント駆動条件を動的に構成することで追従性能の向上および入力更新回数の削減が行えたことを数値シミュレーションで示した.


 

■ 通信の切断を検知するイベントトリガ制御系

大分大学・高橋 将徳,原 正佳,防衛大学校・松木 俊貴

ネットワーク化制御において通信回数の削減と通信異常の検知は重要な課題である.前者の有力な解決法としてイベントトリガ制御が注目されている.これはイベントが生じたときに限定して系内の通信を行う制御法であり,効果的に通信回数を減じることができる.反面,イベントが発生していない状態で通信の切断が生じると,それが制御によるものか否かの見極めができなくなる.本論文では,上述したネットワーク化制御における両問題を同時に解決するために,通信の切断を検知するイベントトリガ制御系を提案する.具体的には,制御対象に積分器と補助信号を加えた拡大系に対し,状態フィードバックによるイベントトリガ制御系を構成する.この制御系では,系内の通信が途切れると(またそのときに限り),積分器の出力は補助信号の効果により閾値に達し,これをモニタすることにより通信の切断が検知される.本論文では,提案する制御系構成法の詳細を示すとともに,通信回数を減じながら通信の切断が検知できること,また検知に要する最大時間が補助信号の大きさで任意に指定できることなど,制御性能および検知性能を理論解析と数値例から示す.


 

■ HTV-X自動ドッキングミッションの最終フェーズにおける相対6自由度GNC精度解析-内挿関数を用いた効率的なモンテカルロ解析手法-

宇宙航空研究開発機構・佐々木 貴広,
村上 尚美,山元 透,近藤 義典

近年,ポスト国際宇宙ステーション(ISS)や月近傍有人拠点Gatewayの検討が進むにつれ,補給機による自動ドッキング技術が注目を浴びている.本研究では,HTV-X 自動ドッキング実証ミッションの運用コンセプトおよび,ドッキングに必要な搭載機器やISS側のリフレクタについてまとめ,ドッキングの最終接近フェーズである,相対6 自由度接近での航法誘導制御(GNC: Guidance, Navigation, and Control)系設計を紹介する.また,提案するモンテカルロ解析手法によって得られた2つの内挿関数に基づき,最終接近開始地点とドッキング前のフリードリフト開始地点がドッキング精度へと与える影響および,ドッキング精度が最適となる組み合わせを明らかにし,ドッキング実証ミッションに必要な精度要求を満たす最適な誘導設計方針を提案する.


 

■ 制御Lyapunov関数に基づく実用安定性アシスト制御

東京理科大学・青木 悠人,中村 文一

操作者としての人を含んだ制御系の安定性を議論するため,人は連続なフィードフォワード入力を生成するものであると捉える.この入力に対してアシスト入力を加えることで,制御則の実用安定性を保証するための制御則が制御Lyapunov関数に基づく実用安定性アシスト制御である.本研究では,実用安定性として半径ρの閉球体への安定性を表すρ安定性を用い,実用安定性アシスト制御とρ安定性の関係を示す.また数値例により実用安定性アシスト制御の有効性を検証する.


 

■ 極零点プロットに基づいた入力むだ時間系の同定に関する研究

明治大学・申 秀行,阿部 直人

本論文では入力むだ時間システムの同定にあたって,モデルの次数がむだ時間ステップ分だけ増加する場合は,不安定零点が原点中心の円周上に存在し,モデルの次数がむだ時間ステップ分だけ増加しない場合は,むだ時間要素を近似した有理関数が不安定零点を持つことを示した.以上の結果から,同定されたモデルの不安定零点が消えるまで,入出力の時間対応をずらして同定を行うことで,モデルとむだ時間を同時に推定することができるシフト同定を提案した.また数値実験にて提案手法の効果を検証し,入力むだ時間システムの同定では,システムの時定数が小さい場合は,むだ時間ステップ分だけモデルの次数が増加し,時定数が大きいなど応答の遅い場合は,むだ時間要素が有理関数として近似されることを示した.結果として,いずれの場合においても提案手法を用いることで,むだ時間とモデルを同時に推定することができることを確認した.


 

■ 風速誤差に対してロバストな予見フィードフォワードによる航空機の突風応答軽減

宇宙航空研究開発機構・濱田 吉郎,名古屋大学・菊地 亮太,
Doer・Research・井之口 浜木

機の突風応答軽減制御を取り扱う.これまでの研究で,前方の風速情報を活用した予見制御の手法を用いることで,突風により生じる上下加速度を低減できることを示してきたが,予見フィードフォワード部の挙動が計測誤差の影響を受けやすい点が課題となっていた.ここで提案する設計手法では,突風による上下加速度応答を低減しつつ,風速情報に加わるランダムおよびバイアス誤差に対してロバストな静的予見フィードフォワードゲインを導出することができる.
渦流モデルを模した二次元突風外乱入力を用いた線形シミュレーションにより,導出した制御則が突風応答軽減性能と誤差に対するロバスト性をバランス良く有していることを示す.


 

■ 連続系深層学習Neural ODEに基づく地球低軌道におけるランデブ軌道制御則

宇宙航空研究開発機構・植田 聡史,九州大学・小川 秀朗

月惑星着陸や宇宙ステーションへのランデブなど,宇宙機の誘導制御方式として,事前に設定した基準軌道に対してフィードバック制御により追従するImplicit guidanceおよび,逐次的に最適軌道と制御量を算出するExplicit guidanceがある.前者では基準軌道の近傍から逸脱した場合のフィードバック制御による復帰が難しく,後者では時々刻々更新される境界条件に基づく基準軌道再生成における最適化計算の負荷に技術的な困難がある.本論文では,従来のどちらの手法にも分類されない制御方式として,瞬時の位置速度に関する軌道状態量から直接的に制御量を生成し,目的とする境界条件を満足する軌道に沿って飛行することができる新たな考え方の制御則を提案する.制御則は連続系深層学習であるNeural ordinary differential equation (Neural ODE)に基づき,数百個規模のパラメータ群及び演算から構成される.本論文では数値シミュレーションにより提案手法の有効性を示すとともに,ランダムな初期誤差に基づく複数の条件を与えた制御則の学習が,初期位置速度のばらつきや学習時には未知である外乱に対する制御則のロバスト性を高めるために有効であることを明らかにした.


 

■ マルチラテレーションの監視によるマルチコプタ型小型無人航空機と有人航空機との衝突回避における不確実性の影響

電子航法研究所・佐藤 岳,虎谷 大地,
古賀 禎,電気通信大学・横井 浩史

近年,小型無人航空機システム(sUAS,ドローンとも呼ばれる)の飛行の増加に伴い,比較的低高度を飛行するヘリコプタなどの有人航空機とsUASの衝突リスクが高まっている.本研究ではこのリスクを軽減するために,マルチコプタ型sUASの衝突回避手法を開発した.有人航空機からsUASは視認できないため,有人航空機の位置情報をsUASに提供することが検討されている.マルチラテレーション(MLAT)はsUASに有人航空機の位置情報を提供する航空機監視システムの候補の一つであり, 有人ヘリコプタも監視可能であるが,比較的大きな測位誤差が生じる.本研究ではマルコフ決定過程に基づいて,MLATの測位誤差による不確実性を考慮した衝突回避問題を定式化した.定式化された衝突回避問題を動的計画法で解くことにより,衝突回避のための最適な行動を導出した.衝突回避手法に対する不確実性の影響を評価するために,複数の数値シミュレーションを行った.その結果,提案手法はMLAT環境の不確実性を考慮しつつ,マルチコプタ型sUASと有人ヘリコプタとの衝突を回避できることが示された.さらに,提案手法をNear Mid Air Collisionの発生率に基づいて評価し,安全な衝突回避を実現するためのMLATの性能の要件を示した.

 


 

■ 姿勢補償を用いたトカゲ型1自由度駆動ロボットの軌道追従制御-制御系設計と実機実装-

秋田大学・南斉 俊佑,東京電機大学・釜道 紀浩

本研究の目的は,全く新しい形態を持つ1自由度駆動ロボットであるトカゲ型ロボット(LISA)の姿勢補償を用いた軌道追従制御を実装することである.本稿ではまず初めに,LISAの旋回角度および歩幅,姿勢,旋回半径といった運動学を定式化する.運動学の導出には,独自のロボット座標を定義する.このロボット座標は,旋回角度やリンクの角度といった重要な状態量を左右対称に表現することに貢献する.次に,姿勢補償を用いた軌道追従制御系を設計する.設計する制御系は,フィードフォワード制御系,PD制御系,姿勢補償制御系から成り,その特徴は,LISAが参照軌道に対して大きい姿勢誤差を持つとき,姿勢補償器によりLISAの向きを修正し,逆に小さい時,PD制御によりLISAの軌道を制御することである.この特徴は,PD制御入力と姿勢補償入力の出力比率をチューニングすることで実現する.設計した制御系の有効性をはじめに数値シミュレーションにより検証する.検証には,直線軌道と円軌道の2種類の軌道を用いる.また,従来のPID制御系と比較し,設計する制御系がより広い安定化可能領域を持つことも検証する.最後に,設計する制御系の有効性を実装実験により検証する.結果として,制御系がLISAの軌道追従制御系として有効であることを確認した.

 


 

■ 広角カメラの画像情報を活用した超小型衛星の姿勢角検出システム

群馬工業高等専門学校・平社 信人,松井 翼,
赤石 大輔,齊藤 創,横浜国立大学・高須賀 颯太

本稿では,「Cubesat」と呼ばれる超小型衛星における軌道上での姿勢検出システムについて述べる.姿勢角を検出するために,強い歪みを有した広角カメラを使用し,衛星から見た太陽方向や地球中心方向を求め,天体の相対関係を求める.太陽や地球中心方向を求めるために,広角カメラによって撮影された画像の歪んだグリッドと特徴点を比較し,指向方向の算出を行う.また,本論文では,太陽方向ベクトルを求める際に太陽が直接映り込んでいなくても地球の明暗部から,画像によって求められることを示した.また,地球輪郭の計算によって地球中心ベクトルを導出できることを示した.これらのベクトルと衛星の軌道上の位置との関係を利用して衛星の姿勢角を算出することができる.また,考案した姿勢角検出システムの妥当性を確認するために,サンプル画像を用いた数値解析や軌道上での実験を行い,結果の評価を行った.

 


 

■ 分布型の通信遅延を考慮した合意制御の安定性解析

東北大学・山川 鯉城,豊橋技術科学大学・刀谷 吉徳,
京都大学・横田 宏,豊田工業高等専門学校・小松 弘和

自律的に意思決定をする複数の要素(エージェント)からなるシステムをマルチエージェントシステムという.マルチエージェントシステムは,各エージェントの状態量によって特徴づけられる.エージェント間で通信し合い,状態偏差をフィードバックすることで,一つの値(合意値)に収束させる制御のことを合意制御という.本論文では,現実的な状況を想定した,エージェント間の通信の時間遅れと情報通信のネットワーク構造に時間変化を取り入れた,合意制御のダイナミクスを記述する非自律的線形関数微分方程式を対象とする.従来研究では,時刻tでのエージェントの制御に時刻t-τでの状態の履歴が関与する離散型の通信遅延を考慮する場合が多い.ここでは,時刻t-τから時刻tまでの全ての状態の履歴が関与しうる分布型の通信遅延を仮定する.その分布型の通信遅延を伴う合意制御に対して,合意を達成するための条件は,「情報通信のネットワークを表現する有向グラフに全域木(すべての頂点を含む有向木)が存在する.」であることを,Lyapunov汎関数に基づいて示す.さらに,マルチエージェントシステムの2つの情報通信ネットワークを具体例とし,数値計算によって本論文で得られた主結果の妥当性の検証を行なう.

 


 

■ 拡張モデル予測制御とスライディングイノベーションフィルタによる水中ドローンのロバスト制御

奈良先端科学技術大学院大学・花田 研太,藤倉 駆,
東 崇史,松原 崇充,南山大学・杉本 謙二

本論文では,近年様々な産業応用が進んでいる水中ドローンの自律移動制御を達成することを目的とし,未知外乱・センサノイズ・モデル化誤差が存在するシステムにおいてロバストかつ高精度に追従制御が可能な手法を提案する.
提案手法は,未知外乱とモデル化誤差を同時に解決し高い制御性能を持つ拡張モデル予測制御にモデル化誤差に対応しつつセンサノイズを除去可能なスライディングイノベーションフィルタ (SIF) を組み合わせた構造となっている.
また,SIFはパラメータ調整により推定精度を向上させることが可能で,このパラメータ決定にはベイズ最適化を活用することで高精度な推定を自動で実現する.シミュレーションにより,提案手法を用いることで他手法よりも高精度に水中ドローンの移動制御が行えることを確認した.

 


 

■ 区分的システムで表現された排出量取引の平衡点解析と安定性

東京工業大学・駒木 俊, 早川 朋久

本論文では,CO2排出削減による企業価値向上を考慮したダイナミカルシステムによって,排出量取引制度下における企業の排出削減・排出枠売買を定式化し,平衡状態の解析を行う.解析の結果,本論文で仮定した削減率で特徴付けられる企業評価モデルの関数形では,排出枠を多く配分することで総削減量を大きくできることや,企業の削減コストと企業評価向上の影響度合いによって決まる量より,初期排出量に対するカーボンニュートラル達成のための必要条件が示される.さらに動学的解析に関して,もっとも単純な2企業間の排出量取引は,ダイナミクスが区分的非線形システムとして表現され,非線形座標変換や次元削減によって簡単化した線形システムに対し,共通のリアプノフ関数を用いる手法によって緩和された安定性条件を導出する.

 


 

■ MPS法の分散計算化による群ロボットの流体的衝突回避の実現

電気通信大学・柴原 将太朗, 澤田 賢治

本研究では様々な形状の障害物に対する群ロボットの流体的衝突回避を流体の粒子表現計算の1つであるMPS法により実現する.MPS法では粒子全体の圧力勾配に関わる連立方程式を解く必要があるが,この計算に分散的な反復解法であるDCG法を適用する.また,DCG法をMPS法へと導入する際に発生するロボット毎の計算負荷と通信量を削減するため,群ロボットをクラスタリング化する.以上を考慮しつつ,流体的衝突回避を実現するために必要な反復計算時間の指標を示した.指標を満たすパラメータを適用した数値実験によって,様々な形状の障害物に対して群ロボットの流体的衝突回避が有効であることを示した.